BIMの課題と可能性・137/樋口一希/現場作業事務所でのBIM運用・4

2016年12月8日 トップニュース

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 建設業にとって作業所は、唯一かつ最も重要な生産現場だ。竹中工務店の信濃橋富士ビル建替工事(大阪市西区西本町)。建設会社が設計施工の優位性を生かすべく、デジタル運用を生産現場(作業所)に向けて収斂していく典型例だ。


 □専門家が「専門知」を再認識して合意内容を相互に「認知化」していく重ね合わせ検討会□


 施工図担当を兼務するBIM運用のキーマンのBIMマネージャーを中心に、設計担当者も交え、サブコンなど関係者全員参加での全15回に及ぶ「重ね合わせ検討会」を深掘りする。

 BIMの3次元モデル運用のメリットである見える化(Visualize)については論考してきた。見える化は、建築主へは図面では説明困難な「気付きを与え」、技術者(専門家)自身にとっては専門知を「自己に逆照射」してくれる。作業所における重ね合わせ検討会での3次元モデルによる見える化は「専門家同士の合意形成」に多大に寄与する。

 ヒアリング結果と資料を分析すると、重ね合わせ検討会の重要性がより明らかとなる。それは、見える化によって明確になった課題を解決する過程で、専門家が自らの専門知を再認識することであり、合意内容を相互に認知化(※Cognify)していくことだ。

 ※Cognify:ケヴィン・ケリー著『〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則』(THE INEVITABLE)から。


 □3次元モデル承認を実現する中で検図作業は姿を消して残ったのは図面押印での管理保管□


 作業所でのBIM運用を通して3次元モデルが「主」で図面は「従」であるとの共通認識は自明となった。3次元モデルでの確認過程で、出力図面で副次的に確認することもあるが、作業としての検図は姿を消した。

 3次元モデルと図面は目的意識的に(混在ではなく)併存して運用され、必要時に図面出力すればよい。信濃橋富士ビルのS造(地下一部RC造・SRC造)での建て替え工事概要に即して3次元モデルと図面の関係にフォーカスする。

 図「鉄骨工事での重ね合わせ検討会」にあるように、鉄骨一般図に基づき、ファブリケーターが鉄骨BIMソフト「Tekla Structures」(トリンブル・ソリューションズ)で作成した3次元モデルは、重ね合わせ検討会での合意形成を経て、3次元モデルのまま承認され、ファブリケーターに提供される。出力図面には承認済みの捺印が行われ、エビデンスとして保管される。

 S造は、RC造などと比較して、主たる構造体である鉄骨の標準化、規格化が進んでいるためBIM運用に向いている。直近では、構造計算ソフトとの連携のもと、設備配管などに用いるスリーブの設置許容箇所も3次元モデルに付加されるようになった。今後、作業所では、外部階段、PCa板、カーテンウォールの3次元承認に挑戦する。


 □建設現場を担っているからこその「元のやり方には戻れない」を踏まえてその先を探索□


 施工図担当兼務のBIMマネージャーをキーマンに据えるなど、作業事務所内の要員配置と業務分担を再構築して作業所へのBIM導入を成功させた竹中工務店。そこに至るには、西日本BIM推進WGが中心となり推進したBIM運用を水平展開するための活動があった。

 BIMキャラバンと称し、キャラバン隊は、内勤各部署や役員向けキャラバンを行い、BIM運用の課題を協働で解決するため現地(作業所)にも直接、出向いている。BIM経験を共有するために設計系と生産系ごとにBIM相談会を運営し、より組織横断的なBIM大会も主宰している。

 「もう元のやり方には戻れない」。まさに建設の現場を担っているからこそ、BIMの3次元モデルの「見え過ぎる化」への驚きは大きかった。専門家だからこそ、瞬時に直感したBIMの有用性。その先を探索するため取材を続けていく。

 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)