導入効果が顕在化しやすい領域に的を絞り、1年余の短期間でBIM運用の基盤を整備した奥村組。構造計算ソフトとのBIM連携、自社物件(九州支店)での免震構造の動的シミュレーションをテーマに、「BIMがすでに離陸し巡航速度に向かいつつある」17年の最初の証左として報告する。
□構造計算ソフトでの仮定断面データから躯体図データを最初に作成して意匠設計にも活用□
奈良市のRC造2階建てのオフィスビル。一貫構造計算ソフト「Super Build/SS3」(ユニオンシステム)による仮定断面データをST-Bridgeファイル形式(※)で「J-BIM施工図CAD」(福井コンピュータアーキテクト)に取り込み、構造オプションを用いて追加修正を行い、躯体図データを介して基本設計BIMモデルとしての活用を模索した事例だ。
J-BIM施工図CADは、S/RC造の施工図作成を支援するシステムで、躯体を構成する3次元部材データを入力することで、施工図の作成から型枠、鉄筋などの積算・集計を自動で行う。
2階建てのRC造と建物規模も小さく、形態も複雑ではないことから、最初に仮定断面データを取り込み、その後、J-BIM施工図CADの躯体図データを意匠設計に活用するという構造計算ソフトとのユニークなBIM連携だ。
※ST-Bridge:一般社団法人buildingSMART Japan構造分科会にて構造データ受け渡し形式として策定されている情報交換のための標準フォーマット。
□設計施工の自社物件に用いた免震構造の挙動を動的シミュレーションで再現して見える化□
北九州市八幡区のS+RC造6階建ての奥村組九州支店社屋・寮新築工事。中間階免震構造を採用した設計施工の自社物件でゼネコンとしてBIM検証のメリットを最大限に活かした。
奥村組は、86年に実用建物として我が国で初めて免震構造評定を取得した技術研究所管理棟(茨城県つくば市)を竣工させている。昨年は30年目の免震実証実験を行い、免震のパイオニアとしての存在感を示した。
免震部分では、免震基礎やアンカーなどをBIMモデル化し、3次元アニメーションソフト「Lumion」(リビングCG)のウォークスルーで、2次元ではつかみにくい箇所での配管との取り合いを中心に検証している。
建屋部分では、地震時に躯体と階段がどのように変位、相関移動するのかに関する簡易な動的シミュレーションを行っている。挙動に関してはデフォルメしたものだが、図面では理解が困難な意匠面での干渉箇所の「見える化」も実践した。施設管理でのBIMモデルの有効性を検証するため、設備機器類などの設備BIMモデルを付加し、FMモデルとしての運用も計画している。
奥村組では、BIMを含めたデジタル環境の整備を加速化するため、トランスコスモス社と協働し、社内外の人材育成にも積極的に取り組んでいる。継続して、今後の推移にも注目していきたい。
〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週火・木曜日掲載)