小規模な建築設計事務所や工務店でもBIM運用が急速に進んでいる。「モデルが主で図面は従である」との意識変化も生まれる中で、小規模組織ならではのBIM運用メリットを中心に報告する。
□英国で触れた「BIM的概念」をベースに04年からは実務面でBIMソフトの成長に立ち会う□
コミュニティ・ハウジング(世田谷区玉川田園調布)主宰のホアン・パブロ・オルドネス(Juan Ordonez)氏は、コロンビアに生まれ、96年からはグラスゴー美術学校建築部CAADで建築を学んでいる。英国では、80年代初頭から、「コンポーネント化した3次元部材を組み合わせて3次元設計するシステム:BDS(Building Design System)」などの研究が進んでおり、オルドネス氏も「BIM的概念」に接する機会は得ていた。
来日後、活動を本格化した04年には、すでに「Vectorworks」を使用していたからBIMソフトへの成長とともに、3次元設計の歩みを語るのにふさわしい設計者だ。
□図面間の整合チェック不要+効果絶大な必要な時に必要な図面が手に入るオンデマンド性□
コロンビアの某地にある建築物の最上階の改修設計。残存図面や内観写真から、最上階の3次元モデルを復元、構築し、取材時には、追加して内壁の仕様決定、家具、設備機器類などの配置段階を迎えていた。
BIMによる3次元設計の優位性は自明として、敢えて3次元モデルと2次元図面との「現在の関係性」について検証した。
導入当時の「Vectorworks」では、3次元モデルから生成される図面の満足度が40%程度のため加筆修正も必要で、複数の図面間整合も困難だった。直前バージョンで満足度は80%程度となり、最新の2017版ではほぼ100%となった。図面作成の時短効果が特に大きいのは展開図で、実感的には従来の3分の1程度になっている。図のように、最新版で装備された室内展開図ビューポート作成機能が効果大だ。
「作業としての製図や複数図面間の整合性チェックは不要になったのと合わせて、さらに重要なのは、必要な時に必要な画面がオンデマンドで出力できることだ」(オルドネス氏)
□リソースマネージャでBIMモデルの各種リソースを一括管理+情報の見える化を有効利用□
「Vectorworks 2017」では、ハッチングなどの描画表現、各種シンボル図形、壁仕様、テクスチャなどのリソースを管理する機能がリソースマネージャ(旧リソースブラウザ)として刷新された。ファイルフィルタリング、検索、表示機能により操作性が向上し、加えて使用可能なオンライン・リソースにアクセス+ダウンロードして取り込み利用できる。
例えば、リソースマネージャで壁ツール>壁スタイル>レンガを選択すると、図面上の壁の描画表現が自動的にレンガとなり、仕様として漆喰を追加すれば、それも図面に瞬時かつ的確に反映される。
このようにリソースマネージャは、BIMモデルが包含するさまざまなリソースを一括管理するとともに、ほぼ100%の満足度となった図面表現を支えている。
「BIMモデルによる情報の見える化は、工程初期のコスト管理に直結するし、BIMモデルを保管すれば、施主からのメンテナンスの相談にも乗ることができる。今後、ニーズが高まる改修設計でもBIMは必須のアイテムとなる」(オルドネス氏)。
〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週火・木曜日掲載)