三井住友建設は、IHI、IHI運搬機械と共同でBIMと連携する「タワークレーン運転支援システム」を開発し、リアルな施工現場(仮称・聖蹟桜ケ丘PJA敷地新築工事)へ導入した。建設業のDXの現在を象徴する施工BIMの最新事例として報告する。 □デジタル空間上で仮想的に建設する施工シミュレーションをリアルな施工現場で実現する□ BIMは、現在進行形で創る=設計BIMから建てる=施工BIMを経て管理運用する=BIM-FM、経営するBIMへと伸延している。設計・施工を標榜する建設業では、設計段階でのBIMデータを施工段階に接続、積算システムなどへも援用し、施工図を生成するプロセスを現業化している。合わせて、施工BIMによるBIMデータを用いてデジタル空間上で仮想的に建設する施工シミュレーションも日常化している。 市販の施工BIMソフトも充実している。グローバルBIM社の「smartCON Planner」、福井コンピュータアーキテクトの「GLOOBE Construction」が代表例だ。それら施工BIMソフトにおいても、タワークレーンをデジタル空間上で駆動させるなど仮想的な運用が可能だ。BIMと連携した「タワークレーン運転支援システム」は、デジタル空間上での施工シミュレーションをリアルな施工現場で相似的に実現した。 □BIMデータ(施工+PCa部材+作業工程)を管理する施工情報システムと連携□ 「タワークレーン運転支援システム」は、クラウド上の施工情報システムとクレーン自動化技術を連携させて、タワークレーン・オペレーターの運転操作を経験豊富なベテランのようにサポートする。その際に重要な役割を果たすのがBIMによる施工データ+プレキャスト(PCa)部材データ+作業工程データを統合して一元的に管理する施工情報システムだ。 施工情報システムには、BIMデータに基づくPCa部材データ、取り付け位置や順序などの施工計画情報をあらかじめ登録しておく。PCa部材に貼付されたRFID(Radio Frequency Identification)タグを現場搬入時に電波を用いて非接触で読み取って部材の固有番号を自動照合する。PCa部材の現場搬入時の位置と方向に関する情報は、GNSS(Global Navigation Satellite System=全球衛星測位システム)を活用して取得している。 □オペレーターは揚重経路を確認してPCa部材の荷取り場から設置位置の上空まで自動誘導する□ 「タワークレーン運転支援システム」の挙動を概説する。現場搬入されたPCa部材の最適な揚重経路は施工計画情報に基づいて自動生成する。オペレーターはモニターで揚重経路を確認した上で、PCa部材の荷取り場から設置位置の上空まで自動誘導する。 タワークレーンの操作には経験豊富なオペレーターが必要だ。「タワークレーン運転支援システム」導入によって安全で適正な自動誘導が可能となり、タワークレーン・オペレーターの担い手不足の解消にも貢献する。 □施工計画情報に基づいてPCa部材を自動で回転・保持して円滑な降下設置作業を実現する□ 施工情報システムと吊(つ)り荷旋回制御装置を連携した吊り荷回転制御システムも導入している。吊り荷回転制御システムは、タワークレーンの揚重作業と連動してPCa部材の水平回転・保持状況を自動制御する。具体的には、設置位置の上空到着に至るまで、施工計画情報に基づいてPCa部材の方位角に向けて自動で回転・保持し、円滑な降下設置作業を可能にする。これによって作業員が人力で介錯ロープを用いて吊り荷を回転する作業が不要となり、吊り荷時の衝突や転落などのリスクが軽減する。 今後は、施工に関する多様なデジタルデータを蓄積するのと合わせて計画データと連携しながら、施工シミュレーションや自動化によって、より一層の安全性と生産性の向上を目指す。 〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)