2022提言特集/新・ストック時代の建設産業

2022年10月17日 特集

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 ◇「新・ストック時代」の実現に待ったなし!
 人々が暮らし、企業が事業活動を行う上で欠かすことができない社会インフラ。国土の発展に合わせて整備されてきた多くの建築・構造物群は、使用者・利用者にさまざまな恩恵を与え、社会を豊かにしてきた。一方で年々増え続ける施設の維持管理コストなどの負担が増大し、老朽化による機能や性能の低下などの問題も顕在化。引き続き安全・安心で利便性の高い社会を維持し、さらに発展させていくためには、膨大なストックをより効率良く、持続性の高い形で運用できる新たなモデルを構築する必要がある。
 ストック市場を取り巻く環境を見ると、加速的に進む老朽化と合わせ、人口減少や財政難といった問題が影を落とす。国や自治体など施設管理者の人的・コスト的負担は膨らむ一方だ。特に財政基盤が脆弱な市区町村を中心に、インフラストックの維持・更新対応への危機感は大きい。
 防災・減災や国土強靱化、経済の持続的成長を後押しするためのインフラ整備を継続すると同時に、ストックの維持再生や集約再編といった取り組みをバランスよく、同時並行で進めることが求められる。適切なメンテナンスサイクルを構築するには、従来モデルからの脱却が不可欠であり、建設産業はもちろん、社会全体で変革の流れを強めることが重要だ。
 長きにわたって官主導で進められたインフラの管理運営は既に転換期を迎え、技術力と資金力の両面から民間活力を導入する動きが強まっている。事業者側も従来の縦割りを排し、広域連携や共同化の取り組みを加速。まさに「総力戦」によるインフラメンテナンスを展開しようと、産官学民の関係者が有機的につながりながら、新たな「国のかたち」を模索している。
 インフラ構造物や建築物の維持管理の在り方がどのように変わり、今後どう進められていくのか。本特集号では、2012年12月の中央自動車道笹子トンネル天井板崩落事故から10年を迎えようとする中、関連政策やストック市場の動向を振り返りつつ、最新の取り組み事例などを踏まえ、新たなストック時代のあるべき姿を探った。 これまで関係各者は、ストック時代の指針となる計画づくりや現場を支える新技術の開発、地域が抱える問題・課題を解決する事業手法の確立などを進めてきた。今後、こうした取り組みを社会や現場に実装しながら、より良いものへとしていく動きは一段と強まる。
 持続性の高いメンテナンスサイクルには、関連産業の付加価値を高め、さまざまなプレーヤーが活躍できる魅力あるストック市場の創出が欠かせない。維持・修繕し残すべきものと、統合・集約し更新するものとを、将来の「国のかたち」を見据えて明示し、社会全体のコンセンサスを得ることも必要だ。
 この国で暮らす一人一人の意識を高め、全員参加型の「新・ストック時代」を創り上げる。道のりは平たんではないが、その実現は待ったなしだ。
 日刊建設工業新聞社

1.市場展望
□予防保全へ転換と維持・更新に着眼した市場の創出、それに対応した「メンテナンス産業」の確立が求められる(2面)
2.政策動向
□「人口減少下のインフラメンテは広域化だけでなく業務モデルとビジネスモデルのトランスフォーメーションを並行して展開しなければならない」-インフラメンテナンス国民会議会長・冨山和彦氏(3面)
□笹子トンネル事故から10年、国交省有識者会議が「地域インフラ群再生戦略マネジメント」で“総力戦”訴える(4面)
3.最新技術
□既存ストックの健全さを保つための技術開発で新たな成長領域を確立する[床版取り換え、コンクリート長寿命化、AI解析、自動計測、ロボット、高耐久舗装、遠隔監視、劣化診断、性能評価、メンテナンスフリー建材、ドローン等](6~9面)
□「データのマネジメントやありようを考える時代が来た。理論武装のための道具としてAIを使う」-京都大学大学院特任教授・小林潔司氏(9面)
□「スマート化を図りながら、インフラ管理者が直面している課題をソサエティー5.0の実現で解決する」-東北大学インフラ・マネジメント研究センター長・久田真氏(10面)
4.体制強化
□インフラの維持管理を担う人材育成で産学官の協力・連携の動きが広がる(11面)
5.地域の課題解決
□地域の実情に合わせながら経営的視点でインフラ等の運営・管理体制を見直し民間活力も積極導入する[公共施設、下水道、道路、河川](12~14面)
□「財源捻出を目標に掲げ、老朽化したインフラの放置による危険から国民を守るための経費は確保せねばならない」-インフラメンテナンス市区町村長会議代表幹事 東京都稲城市長・高橋勝浩氏(15面)
6.インフラの予防保全
□交通事業者らがICT駆使した点検・診断でビッグデータを収集し、効率的な維持管理につなげる[高速道路、鉄道](16・17面)
7.生活空間
□持続可能な住生活の実現へ官民の技術・ノウハウ結集して多様なニーズ・価値観に応える[マンション建て替え、リファイニング建築、住宅団地再生、空き家対策](18・19面)
8.開発も保存も
□地域の歴史象徴する建物の姿を残しつつ新たな街の景色と活気を創出する[横浜市旧市庁舎活用事業](20面)