魅力発信の潮流/SNSは情報発信に必須

2023年1月1日 特集 [20面]

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 個人間の意思疎通だけでなく、人材採用の手段として利用するケースが増えつつあるSNS(インターネット交流サイト)。不特定多数に情報を届けられる一方、注目を浴びるのは一握り。動画投稿サイト・ユーチューブなどを運営する情報発信者は、SNSの重要性を訴えると同時に「気長な姿勢が必要」とも説く。自社の魅力をどう伝えるかに苦心してきた建設業界にとってSNSは切り札になるのか--。
 □石男くんの建設チャンネル・柿崎赳氏/自社の魅力、経営層が語ろう□
 ユーチューブを通じ、業界を取り巻くさまざまな動向を舌鋒(ぜっぽう)鋭く解説するユーチューバーがいる。新庄砕石工業所(山形県新庄市)の柿崎赳取締役は約3年前に「石男くんの建設チャンネル」を開設。会社員とユーチューバーの二足のわらじを履く柿崎氏の動画は、急騰する資材価格への影響など多岐にわたる。時流を捉えた動画は業界内でも話題を呼んでいる。
 同チャンネルは新型コロナウイルスが流行した2020年にスタートした。当時から建設業に特化したチャンネルは少なく、海外で成功した事例を日本に持ち帰る「タイムマシン経営ができる」と判断した柿崎氏は、ユーチューブが「自社の業容を拡大するための手段だった」と振り返る。建設キャリアアップシステム(CCUS)の普及拡大など「処遇改善に向けた動きがあることを広く伝えたい」という思いも動画制作の原動力になっている。
 一部の編集業務を外注するなどして、10分程度の動画を7~8時間で制作する。チャンネル登録者の中には公共発注機関の職員もおり、政策内容の改善点に話題が及ぶことも。視聴者との交流によって「大きなシナジー(相乗効果)が得られる」と手応えを語る。
 建設業は「PRが上手ではない」と評価する柿崎氏。今後SNSやユーチューブを始める業界関係者に対して「(フォロワーが)伸びないのは当たり前という気構えが必要」と指南した上で、建設業や自社の魅力は「経営層が語るべきだ」と注文を付ける。
 地道な活動が奏功し、大卒者の入社エントリーは200人弱に上った。講演依頼も相次ぎ、直近では京都大学大学院の藤井聡教授らと共にセミナーに参加した。チャンネル登録者の目標数は5万人といい、「保守的な業界だが、応援してくれる方が多い」と笑顔で語る。
 《石男くんの建設チャンネル》
 建設業を中心にさまざまな話題を柿崎氏が解説。直近のテーマは資材価格の高騰や適格請求書等保存方式(インボイス制度)など。チャンネル名の「石男くん」は新庄砕石工業所のキャラクターから命名した。22年11月時点の登録者数は約1・2万人、動画投稿数は110本。

 □女大工ぜぜまる/現場がより良くなるように□
 大工の仕事を知ってほしい--。こう語るのは女性職人のぜぜまるさんだ。「女大工ぜぜまる」として、ユーチューブチャンネル「ぜぜまる。」を運営。現場の作業風景や工具の使い方などを紹介する動画を投稿している。22年11月末時点のチャンネル登録者数は約4万人。予想を超える増加に「今もびっくりしている」と打ち明ける。
 活動のきっかけは「皆が高いお金や家賃を払って住む家が、どう造られているのかが知られていない」と感じたからだ。業界外との情報共有の場をつくり、「大工の肩身の狭さをなくしたい」と展望する。
 動画制作は夫婦二人三脚で取り組む。簡潔で分かりやすい編集を心掛け、冒頭に要点をまとめる。視聴者が飽きないようにBGMやテロップにもこだわる。編集作業に慣れてきた現在でも1本当たり10時間ほどかけて仕上げるという。動画のコメント欄には「こんなに苦労して家を建てているんだ」「建物は人が建てると気付かされた」といった感想が集まる。
 木造住宅の新築現場を紹介する動画では、他の作業員に対し「邪魔なんだよ、降りろ!」と職人が厳しく注意する場面も切り取らずに投稿した。ぜぜまるさんは必要な声掛けだったとした上で「受け止め方は見る人によって変わる。前向きな意味で、包み隠さず現場の風景を伝えている」と意図を語る。
 昨今は女性大工が増えてきたと感じる一方、「男女で物の見方も異なる。課題は山積みだ」とも指摘する。SNSには時折、大工に関心を持った女性から相談が届く。自身の経験を元に体力的なつらさやけがを負うリスクを正直に伝える。
 ユーチューバーとして登録者が増えた今も「本職は大工」と揺るがない。動画制作は「ゴールはなく、やれるところまでやる。ネタがあれば動画を出すし、無いならしょうがない」と割り切る。「見てくれる人が増えることで、建設の現場がより良くなってほしい」と期待する。
 《女大工ぜぜまる》
 住宅を中心に現場で働きながら、約2年前にユーチューブを開始。主に作業風景や工具の使い方などを紹介する。動画内では時折、愛犬が登場することも。22年11月末時点の登録者数は約4・14万人、動画投稿本数は78本で、SNSでも積極的に情報を発信する。

 □ドボクのミカタ・小川慎太郎氏/若者が集う場所に情報を届ける□
 人材獲得競争を有利に進めようと、民間企業を中心にSNSを最大限活用する動きが広がっている。仕事の一コマを切り取って動画配信するなど、その手法はさまざま。就職活動を控える学生に、自社の魅力を伝えられるかは企業の腕の見せ所と言えよう。土木分野を専門とする広報会社・ドボクのミカタ(福岡市中央区)の小川慎太郎代表取締役は、発信力に弱点を抱える建設業界に対してSNSの重要性を訴える。
 小川氏は同社を設立し、土木広報プロデューサーの肩書でさまざまな課題を抱える建設会社や建設コンサルタントなど地場の企業にアドバイスを行っている。土木は「日常生活で重要な役割を果たしている」と説いた上で、「業界と一般人のハブでありたい」と目を輝かす。
 数々の顧客を抱える小川氏は、建設業界でSNSの活用が進まない理由として「SNSの本質を理解していないから」と指摘する。不特定多数がタイムリーに情報交換できるSNSは、閲覧数など成果を得るまでに時間がかかる。企業に対して「継続する姿勢」を求める。
 若年層に土木や建設業界を知ってもらうには、「若者が集う場所に情報を届けなくては意味がない」と小川氏。生活必需品とも言える「スマートフォンこそがその場所だ」と分析しつつ、「万能ではないが、SNSは必須のアイテムだ」と語る。
 相談を依頼する顧客の中には、具体的な将来ビジョンを持ち合わせてないケースも少なくない。だが小川氏は「SNSは種類によって長所も短所もある。これが正解というやり方はない」とアドバイスする。建設業界の魅力を理解してもらえるよう、「地道な取り組みと社員自らが楽しんで情報発信してほしい」とエールを送る。
 《ドボクのミカタ》
 土木広報専門会社として2017年6月に設立。営業活動やコンサル業務を小川氏が1人でこなす。過去の相談依頼でホームページの全面リニューアルなどを指南したところ、採用応募が例年よりも4倍に増えたという実績も。URLはhttps://dnm.jp。