◇いろんな「K」を発信しよう/給与、休暇、希望、かっこいい、きれい、きめ細か…
持続可能な建設産業を目指す上で、最大の課題となる「担い手の確保」。他産業との人材獲得競争で優位に立ち、若者などから選ばれる産業となるには、働き手の処遇改善や働きやすさの追求に加え、業界全体のイメージアップが不可欠だ。かつてプロ野球を代表するホームランバッターとして活躍し、現在は国土交通省で建設産業を担務とする石井浩郎副大臣に、一般社会に対し業界の魅力をどう発信していけばいいか質問を投じてみた。
--建設業の魅力、やりがいについて、これまでの議員活動などでどう感じてきたか。
「仕事のスケールが大きく、目に見えるカタチで残せる。そして社会的な使命が極めて大きい。住宅、道路、河川、下水道、公園など、どれも私たちの生活になくてはならないインフラ。建設業は、これらの社会資本整備の担い手となる。整備した後は、しっかりメンテナンスする。これで初めて安全・安心な日常が守られる。災害時には真っ先に現場へ駆け付け、懸命に復旧・復興に尽力する。よく『地域の守り手』と言われるが、インフラを守るという意味だけではない。建設現場の仕事は、とても裾野が広い。いろんな職種のプロがいて、ダンプなどの機材、生コンなどの資材、これらの製造会社、運搬業者、交通誘導に至るまで、多くの関わり合いの上で成り立っている。そこで経済が回り、多くの雇用が確保される。現場で汗を流した後は飲み屋も活気づくことだろう。まさに地域そのものを守る存在だと感じている」
--幅広い人材にアピールするため業界のイメージアップを図るにはどのような方策が必要か。
「まず重要なのは、建設業界に『今いる人たち』を大切にすること。皆さんが新3K(給与・休暇・希望)をしっかりと実感できる処遇改善策だと思う。私が現役のプロ野球選手だった頃、公共工事の予算は減り続け、過当競争で赤字覚悟の受注が横行していた。その結果、労働条件が悪化し、多くの人が建設業から離れてしまった。3K(きつい・汚い・危険)に加えて、『頑張っても稼げない』みたいなイメージも加わってしまった。しまいには、公共工事イコール無駄というように『コンクリートから人へ』と言われた時期もあった」
「しかし、東日本大震災からの復興を契機に、建設業に対する世間の目が大きく変わった。最前線の現場で勇ましく活躍する姿に、改めてわれわれは胸を打たれた。同時に、人手不足が顕在化し、将来の現場力を維持するための人材育成が重要なんだと痛感もした。このため2014年に公共工事品質確保促進法(公共工事品確法)が改正され、建設業者が人材投資するための適正利潤の確保が発注者責務となり急ピッチで労働環境の改善も進めた。19年の建設業法改正は働き方改革が目的。元請・下請も含めて無理な工期で発注、受注しないよう働き掛けている」
「建設業界に『これから入る人たち』は工業高校生などが多く、進路を決める際に保護者の影響を受ける。一般の保護者に『近所の現場は土日静かだな』と普段から意識してもらうことは案外大事だと思う。また、最近は女性の姿も徐々に増えてきた。各地での地道な『女子会』活動やICTの進展が背景にあると思う。現場撮影ドローンや3D図面作成、無人化施工などの操作ができる人材が重宝されている。昔のような『アナログで体力勝負の男社会』というイメージは相当変わってきている。この良い流れをさらに勢いづけられるよう、建設業政策を全力で前へ進めていく」
--建設業の新3Kの実現に向けた取り組みの現状と展望は。
「新3Kは『他産業からの後れを取り戻す』という意味でも欠かせない。このため、公共工事設計労務単価の10年連続引き上げや週休2日工事などの働き方改革も積極的に主導してきた。また、頑張る職人が評価され、退職後も含め希望が持てるよう、建設キャリアアップシステム(CCUS)の普及も重要。既に技能者登録が100万人を突破し、全体の3分の1まで浸透している。これほど一業界のために国ぐるみでつくるシステムはなく、とても画期的だ」
「加えて、やはり大事なのは建設業のイメージ戦略。そこで新4Kの『かっこいい』だ。国交省では、測量、設計、施工、維持管理に至るまでICTをフル活用する『インフラ分野のDX』を推進している。各都道府県などでも、SNS(インターネット交流サイト)や動画投稿サイト・ユーチューブを使って魅力発信するケースが見られる。例えば、徳島県の『Super Cool Professional』と題したプロモーション動画はかっこいい仕上がりだ。ほかにも、おしゃれで快適なトイレなどの『きれい』な現場、建設業29業種ごとの『きめ細か』なキャリアパスの紹介、あるいは悩み相談や離職防止に役立つ同世代交流会の開催といった『気配り』など、いろんな『K』が考えられると思う。ターゲットごとにうまく使い分けて、建設業に魅力を感じてもらえるような戦略的広報が重要だ」
--自身の経験も踏まえ、将来の建設業の担い手となる若年層へメッセージを。
「私は学生時代に毎日の厳しい練習に耐えて、小さい頃からの夢であったプロ野球選手になれた。だから多少の困難があっても、夢や目標があれば必ず実現できると考えている。プロ野球は、今でこそ観客からお金を頂戴して興行しているが、戦前に始まった頃は『趣味(遊び)でお金を取るのはあり得ない』という状況だったそうだ。先人たちが、少しずつイメージを変えていく努力を積み重ねたことで、今のプロ野球があると思っている。建設業も同じで、さらにイメージ向上のための努力をし続けることが大切だ。建設業は、国土を守り、国土をつくる、大変素晴らしい仕事。皆さんが夢や目標を持って働けるような環境づくりに、私も全力で取り組んでいく」。
□PR動画配信が各地に波及□
徳島県がユーチューブで配信している建設業のPR動画「カッコイイ、希望の持てる、建設産業へ ~super cool professional~」は、徳島県建設業協会(西村裕会長)に業務委託し2021年10月に作成。農家ミュージシャン・こうすけさんが歌い上げるラップに乗せて、建設現場で活躍する技術者や技能者の姿を映し出している。
普段は見えにくい建設業の魅力を伝える動画配信の取り組みは、全国各地の建設業団体や建設会社に広がっている。
新3Kの実現に向けた地道な取り組みとともに、建設業のイメージアップを積極的にアピールすることが、若者に選ばれる産業への足掛かりとなる。