広がる流域治水・1/川づくりとまちづくりが連携、整備局に部門横断の推進室

2023年4月10日 ニュース

文字サイズ

 気候変動の影響で豪雨災害のリスクが高まっている。河川堤防の整備など従来型のハード対策だけでは、いつ、どこで起きるかわからない災害に追いつけない状況に対し、視野を広げて治水安全度を高めることが重要となっている。国土交通省の出先機関では川づくり、まちづくり部局が連携する「流域治水」の取り組みが動き始めた。安全な暮らしの実現を目指す活動を取材した。(流域治水取材班)

 各地方整備局は1~2月、河川部と建政部の担当者で組織する流域治水推進室を設置。北海道開発局も事業振興部、建設部、農業水産部による同様の組織を設けた。各局管内の水系ごとの「流域治水プロジェクト」を具体化する旗振り役を担う。
 熊本県を流れる球磨川流域に爪痕を残した2020年7月豪雨。九州地方整備局八代河川国道事務所長として当時、現地対応の陣頭指揮を執った服部洋佑氏(現河川部河川調査官)の元には、被災地の首長から河川分野にとどまらない要望が寄せられた。まちづくりや観光も所管する国交省の出先として、土木職が中心の事務所職員も「幅広い知識を持って対応する必要がある」と痛感したという。
 1月から九州整備局の流域治水推進室長を兼任する服部氏は、川、まち両部局が「流域治水」という同じ方向を目指す意義と、被災地対応での思いを重ね合わせる。
 四国地方整備局の流域治水推進室長に就いた山本卓男河川調査官は、近年の水害から「施設整備では限界がある時代に入った」と指摘。「豪雨で堤防を乗り越えるような事態も想定しながら、浸水対応とまちづくりを同じテーブルに乗せ、自治体や住民らとも一緒になって考えていきたい」と意欲を示す。
 21年通常国会で成立した流域治水関連法では、想定する各種事業に対応できるよう河川、下水道、都市計画、建築基準など九つの法令を一体で改正した。政府の関連予算も大幅拡充。個々のプロジェクトの具体化へ国、自治体、地元住民らが協働した活動を進める。
 「活用できる補助金や関係法令などの相談に応じる窓口を設け幅広に流域治水をサポートする」と語るのは東北地方整備局の当時の推進室長だった斉藤喜浩氏(現同局北上川下流河川事務所長)。管内の流域治水プロジェクトを進める上で「地形や河川の特性など地域にあった取り組みが必須」とし、好事例のノウハウ構築と情報共有に努め、個別課題へのコーディネーター的役割も果たす構えだ。
 「新たな組織の設置で思考の幅を広げたい」。関東地方整備局の推進室長の藤本雄介河川調査官は推進室のメンバーが「川」や「まち」で培ったそれぞれの知見を、流域治水に生かす考えを示す。
 (次回から2面に掲載します)