熊本県の球磨川流域は、2020年7月豪雨で大きな被害に見舞われた。災害後、支川で計画された貯留型の川辺川ダムに代わる「流水型ダム」の整備が決定。蒲島郁夫知事は、このダムや遊水地を活用するなどして「緑の流域治水」で命と清流を守る考えを示した。
九州地方整備局はその一環で、球磨川中流域の住まいを再建する土地のかさ上げ初弾工事を球磨村神瀬地区で着手。球磨川の流下能力を向上させる河道掘削の発生土砂で盛り土する。初弾の進展で33カ所のかさ上げに弾みがつくと期待される。
福岡県南部の久留米市は、18年から4年連続で内水氾濫が発生したのを受け、独自の流域治水推進プロジェクトを進める。対策の一つが「田んぼダム」。排水口にセキ板を設け、ゆっくりと水路に流して流出量をピークカットする。大きなコストがかからず効果が見込めるとして、今年は前年までの11倍に面積を拡大。公共施設への雨水貯留施設の配置などと組み合わせて浸水被害の防止・軽減に役立てる。
流域治水では、地域の防災意識の高揚も不可欠。同市は昨年5月、地元の土木協同組合と市民も巻き込み水路を浚渫する「皆で流域治水」を実施。今年も同様の活動を計画中だ。
九州整備局筑後川河川事務所が2月初旬にオンラインで開いた筑後川・矢部川の流域自治体らが参加した合同会議。同市の取り組みも紹介されると、他の自治体から同じ流域での活動内容の共有と連携の必要性が指摘された。
22年7月12日、群馬県片品村など利根川水系の1級河川・片品川流域の4市町村が03年に事業中止が決まった戸倉ダム(片品村)の整備再開へ「戸倉ダム建設促進期成同盟会」を発足した。下流を含む利根川水系全体の治水機能の強化を目指し、発電や地域の活性化も視野に入れる。梅澤志洋片品村長は「下流域の皆さまにも協力をお願いしたい」と求めた。
21年11月に全面施行した改正特定都市河川浸水被害対策法。千葉県の2級河川・一宮川水系の11河川と流域6市町の一部は、雨水浸透の阻害行為が許可制になったり、雨水貯留浸透の対策が義務化されたりする同法に基づく特定都市河川、特定都市河川流域に1月31日付で法改正後に関東で初めて指定された。約30年で4度の浸水被害のあった地域。治水の取り組みをまとめる流域治水マスタープランの策定が進む。
23年度中の指定を目指している三重県の雲出川中流部域をはじめ、特定都市河川の指定を目指す地域は全国に複数ある。防災関連事業を行う東北地域づくり協会と共同研究に取り組む宮城県大崎市のように、水害に強いまちづくりを国や県に提言する地域も出てきた。流域ごと地域を守る動きが全国で加速している。