広がる流域治水・4/河川整備をさらに加速/デベや商業開発事業者らの参画も期待

2023年4月13日 ニュース

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 流域治水推進室は、中国地方整備局が江の川水系の整備に向けて立ち上げたプロジェクトチームがモデルになったとされる。河川とまちづくりなどの部局の連携で、自治体がコンパクトシティーを目指して策定する「立地適正化計画」に流域治水の考え方がさらに反映される見通しだ。
 浸水リスクを考慮した土地の利用規制は、地域の持続可能性を高める。用地部の参画は、ハザードエリアからの移転を求めるような治水と一体のまちづくりを促すことになる。農林水産部局が存在すれば、水田の治水機能を生かす「田んぼダム」や、ため池利用を円滑に進めやすくなる。
 民間事業者の役割は一段と重要になっていく。治水関係の数々の工事・業務を手掛け、技術力を高めてきた建設産業各社は各流域が描く将来像の実現に一層の貢献が求められる。「インフラ整備だけでは思いつかなかったアイデアが出てくる」(整備局幹部)と、まちづくり行政とのつながりが強いデベロッパーや商業開発事業者などの参画に期待の声も上がる。
 治水機能の向上とともに脱炭素や地域振興も目標とする「ハイブリッドダム」の整備をはじめ、新たな治水施策は行政と民間の相互協力が欠かせない。国土交通省は流域治水を推進する企業を「オフィシャルサポーター」に認定し、ウェブサイトで紹介する取り組みを2023年度に始める。
 気候変動に対応するため、河川流域のあらゆる関係者が協働して安全安心な地域の実現を目指す流域治水。ハードとソフトの対策を組み合わせた事前防災が進むことになるが、従来の河川整備にしっかり取り組むのが前提でもある。
 相次ぐ水害や15年9月の関東・東北豪雨災害を踏まえ、国交相から大規模氾濫の減災や治水対策の在り方が諮問された社会資本整備審議会(社整審)は、同12月に「『水防災意識社会』の再構築」を答申した。「施設では防ぎきれない大洪水は必ず発生する」と指摘。意識を変革し、社会全体で洪水に備えるよう求めた。
 国土強靱化に向けた政府の3か年緊急対策(18~20年度、事業費総額7兆円程度)と、それに続く5か年加速化対策(21~25年度、事業費総額15兆円程度)の予算も生かしながら、国交省は従来から進めてきたハード対策を一段と加速させている。河川施設の整備に逆風が吹いたことで生じた過去の治水の遅れは早急に取り戻さねばならない。
 21年7月の流域治水関連法の一部施行から2年弱。14水系171河川が特定都市河川に指定された。施策集は厚さを増し、水害のリスクの可視化と被害の常時把握の取り組みも進んでいる。それでも国交省が109の1級水系で策定した流域治水プロジェクトを具体化する取り組みはまだ緒に就いたばかり。関係者が強みを生かし、弱点を補いながら進める流域治水は、従来のインフラ整備から一歩踏み込んだ新たな挑戦でもある。
 =おわり(流域治水取材班)