デジタルで建設をDXする・97/樋口一希/デジタル化を先導した2氏の新たな挑戦

2023年5月25日 ニュース

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BIMに象徴される建設業のデジタル化を先導してきた人材が代替わりの時期を迎えている。デジタル技術運用の知見とノウハウを次世代に伝えるべく活動をスタートさせた浅野博光氏(びむてく工房代表取締役)と原行雄氏(アートヴィレッヂ代表取締役)の新たな挑戦を報告する。

□BIMによる3次元設計への移行支援などコンサルティングを行う「びむてく工房」を創業□
浅野氏は1978年に奥村組に入社。工事管理、構造設計、意匠設計、CAD支援ソフト開発などに携わり、建築設計部長などの要職を経て2014年からはBIMの導入・普及を担当した。22年11月に奥村組を定年退職し、今年2月にBIMの導入と運用全般にわたるコンサルティングを行う「びむてく工房」を創業した。奥村組のBIM状況については、連載「BIMのその先を目指して」第86・87回(進展する奥村組のBIM運用)で報告している。3月3日開催のBIMセミナーでの講演「人それぞれのBIM」を通じて、BIMの現況を踏まえた今後の活動への指針を聴いた。
1983年にCAD導入に立ち会い、約15年間で完全にCADに移行したが、手描き手法をデジタル化しただけで設計手法は変わらなかった。その間にCADオペレーターという職能も登場し、手描き図面は消滅していった。一方、BIM元年といわれた2009年から14年が経過してもCADからBIMに置き換わってはいない。CADからBIM、2次元図面から3次元BIMモデルへと移行するためには設計手法を変えなければならない。
CAD導入時と異なり、設計手法そのものの変革が求められている現在、〈1〉設計者自らがBIMを使う〈2〉建築知識を有したオペレーターを育成する〈3〉BIMソフトをより使いやすく継続的に改良していく-必要がある。びむてく工房では、それら設計手法の変革に向けた支援を行い、BIMによる建築プロセス全般の生産性向上に貢献していく考えだ。

□BIMによるデジタル版建築設計資料集成の構築を進めるなど施工図事務所の職域を拡張□
施工図事務所は、設計情報を施工情報に翻訳し、架橋する重要な役割を果たす。BIMによりデジタル化された建物情報を設計から施工へとつなげる中でアートヴィレッヂは職域を広げている。アートヴィレッヂのBIM運用については、連載「BIMの課題と可能性」第56~58回(深化する施工図事務所の職能)においても報告している。
大手組織設計事務所と協働してデジタル版建築設計資料集成ともいえるプロジェクトを進めている。建築設計資料集成は、建築にまつわる情報を網羅した標準図面・詳細図集だ。紙媒体のため検索性は限定的で、拡大縮小・回転はできず、2次元表現のため情報の見える化にも限界がある。建てるBIM=施工BIMで培った知見とノウハウを用いて、設計事務所の仕様に準拠した建築設計資料集成をBIMによる3次元モデルでデジタル化している。
BIMモデルの詳細度を定義するLODは、一般的にはレベル100=企画設計モデル、200=基本設計モデル、300=実施設計モデル、400=施工図モデルとされるが、ここでは原寸値(1/1)でモデル生成している。これによって設計者は工程の最上流の段階で、設計の射程を伸延してリアルな施工の実相までを視野に入れることができる。
BIMサービスプロバイダーとの協働にも着手した。施工図では、設計図書を基にコスト、品質、工期などを精査し、サブコンや現場職人など関係者に指示するための情報を付加する。意匠・構造・設備間で設計図書通りには施工できないケースが生じた際、関係者間でBIMモデルによって重ね合わせ調整などを行って協議する。
このように施工図事務所には、設計図書を読み取り、施工図(モデル)に必要な情報を補い、付加する高度な能力が求められる。BIMによる施工図(モデル)構築を実践する中で、アートヴィレッヂは、関係者間の総合調整機能の重要性に着目し、実務の精度を向上するべくBIMサービスプロバイダーとの協働を進めている。
〈アーキネットジャパン事務局〉(毎週木曜日掲載)