関東大震災100年-教訓を生かす・2/緊急時の物資輸送機能確保

2023年8月28日 ニュース [1面]

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 ◇交通事業者、着実に施設耐震化推進
 地震時でも早期に機能を回復させるため、鉄道や高速道路を管理する交通事業者の多くが過去の災害を教訓に耐震対策を進めてきた。ハブ空港の一つ羽田空港(東京都大田区)でも国土交通省が滑走路の補強を推進。緊急時の物資輸送など重要な役割を担う交通インフラを強靱化する動きが、首都圏で着々と進んでいる。
 1995年1月の阪神大震災では阪神高速道路が倒壊するなど甚大な被害が出た。高架式道路橋を設計・施工する際の技術基準である「道路橋示方書」が大幅に見直された。
 東日本高速道路会社が耐震化に取り組んだのは、2005年以前の旧日本道路公団時代にまでさかのぼる。16年4月に発生した熊本地震を踏まえ、高速道路をまたぐロッキング橋脚形式の跨(こ)道橋(約6000橋)の8割程度で耐震化を終えている。
 首都高速道路会社も阪神大震災を契機に橋脚の耐震化を進め、既に対策を完了。「10センチでもずれていると走行不良」(同社担当者)になるため、現在は応援部隊の利用頻度が高い路線を優先し桁同士のジョイント部を補強している。
 東京メトロは阪神大震災や11年3月の東日本大震災を契機に見直された耐震基準を踏まえて補強。従来の耐震基準で不要と判断されてきた開削トンネルのRC中柱などの補強を推進している。交通利便性と災害時の経路確保を狙い南北、有楽町の各線も延伸する。
 21年2月と22年3月に福島県沖で発生した地震を受け、耐震補強計画を見直したのはJR東日本。2度の地震で新幹線の一部高架橋で桁が沈下したため、橋桁を支えるラーメン橋台6000本と電柱の耐震対策を優先して行う。事業費は4500億円規模を見込む。
 日本の玄関口・羽田空港は「地盤が軟弱な埋め立て地に整備された」(国交省航空局)ため、内陸部にある他の空港よりも耐震化が急務という。97年に開始した耐震補強は滑走路3本の耐震化がほぼ完了し、A滑走路と3本の滑走路をつなぐ誘導路の補強が控える。
 一朝一夕に終わらない耐震化を巡っては課題もさまざま。対策費用を収益の一部で賄っている事業者にとって「利用者の理解を得られるか」が悩み所となっている。資材価格の高騰も重なり、事業費のさらなる増額を懸念する声も漏れ聞こえる。
 24年4月から建設業が適用を受ける時間外労働の罰則付き上限規制への対応も求められている。「時間的な制約を考慮して作業する」(東京メトロら)など耐震工事と働き方改革の両立に気を配る事業者も少なくない。
 大規模地震によって耐震基準などが見直されるたび、迅速に対応してきた交通事業者。ある企業の担当者は「気を引き締めるきっかけになった」と振り返る。強くしなやかなインフラを提供しようと関係機関が奮闘している。