[20230829-07-01-001]第20回建設未来フォーラム/一気通貫で生産性向上を目指す~建設業界の営業DX[o1]
日刊建設工業新聞社は7月25日、セールスフォース・ジャパンの協賛により「一気通貫で生産性向上を目指す~建設業界における営業DXの実践例と成功事例」をテーマとする第20回建設未来フォーラムをオンラインで実施しました。当日は不動産適正取引推進機構理事長で不動産建設データ活用推進協会顧問の青木由行氏による基調講演に続き、セールスフォース・ジャパンが提供する営業活動支援クラウドサービス「Salesforce(セールスフォース)」の建設業界での活用例、Salesforceを導入して営業業務の変革を推進している西松建設と日特建設の取り組みについて、各社から紹介されました。その要旨を再録します。
(写真・図版は各講演者提供)
□基調講演・青木由行氏/不動産建設データ活用推進協会の取り組みについて□
現在、あらゆる分野でデジタル化、DXが加速しています。DXの進化について、産業技術総合研究所(産総研)の本村陽一先生は3段階あると説明されています。ステップ1は、AI技術を活用し既存の業務プロセスを自動化、リモート化、デジタル化する段階。ステップ2は、ステップ1のAI技術で集積されたビッグデータを使うことで新たな価値が生まれ、それにより人や組織も進化する段階。そしてステップ3は、進化したさまざまな組織が全体を俯瞰(ふかん)して本来のあるべき姿を再モデル化し、新しい価値をともにつくる価値共創の段階で、真の変革が始まります。DXは三つのステップ順に直線的に進化していくのではなく、新たなデジタル技術が価値の創出・増大をもたらし、それを体験するユーザーが新たなデータを増大させ、ビッグデータを生成し、それがさらに新たなモデル化を起こしさらなるデジタル技術の導入・改善をもたらすという成長スパイラルで進化していきます。
この流れも展望し、私は今後のDX推進には三つポイントがあると考えています。第一は「データの質と量の進化」で、新しいセンシング技術の導入や新しいソフト、アプリの使用で新しいデータが生まれますが、「使える・連携できるデータ」とするには、共通のフォーマット、共通のID、データクレンジングが重要です。
第二は「包括的価値の目線とイノベーション」で、ビッグデータができ、データ活用が取得時期や組織で分断されたサイロ状態から、過去・現在、部署・企業・異業種間で連携が進むと、限定された個別の最適価値ではなく、より包括的な最適価値の創出が可能になります。共通善とも言うべき、新しい包括的価値の目線を立場を超えて共有することが重要で、近年「ユーザー目線」が多くの分野で共有され、新しい価値を生んでいますが、今後、災害への強靭化、ライフサイクル最適化、担い手の持続的処遇改善など新たな包括的価値が共有され、イノベーションが生まれることも期待しています。
第三は「エコシステム」で、第一、第二で述べたデータバリューチェーンを形成し包括的な価値を共感、共創するには、企業や業界の枠を超えたエコシステムが重要です。
不動産建設データ活用推進協会は、このようなエコシステムの構築を目的として本年4月に発足し、企業間連携、異業種連携の促進、デジタル人材の不動産・建設業界への誘致を含む人材育成を目的として活動しています。現在、毎月第二火曜に「月例会」を開催し、委員会の活動報告や会員企業ピッチなどの勉強会と会員企業交流を行っています。また、「広報委員会」「出版委員会」「データコンペ委員会」が動き始めており、今後、会員の要望を踏まえAPIや人流データなどの新たな委員会も立ち上げることとしています。
出版委員会では、仮題ですが『不動産のAI成功パターン』という書籍の発行を準備しています。土地・物件の探索、開発計画、建設、販売・賃貸、管理メンテナンス、売却・再投資というバリューチェーンの各段階での、需要予測・ターゲティング、評価・価値算出、UX向上、言語処理、画像処理、ロボティクスといったAI活用の代表的類型を具体事例で説明し、実務の参考となる内容を目指しています。いずれ『建設版』もつくりたいと思っています。
データコンペ委員会では、具体の不動産建設データを活用したモデル構築等のコンペの開催の準備をしており、このコンペを通じて、デジタル人材の育成、データサイエンティストの発掘をしていきたいと考えています。
会員は設立から2カ月で50社を超え、手続き中のものを入れると100社を超えようとしています。不動産・建設分野のデータ活用、DXの推進に意欲的に取り組まれる企業様、団体様にはご入会を検討いただければ幸いです。
(一般財団法人不動産適正取引推進機構理事長、一般社団法人不動産建設データ活用推進協会顧問・青木由行氏
□西松建設株式会社/生産性向上のためのDX:西松建設のデジタルトランスフォーメーション□
当社の建築営業は、組織力より個人の営業力に依存してきた営業文化でした。営業日報すらなく、営業活動の報告のタイミングが個人に委ねられているためにリアルタイムの把握ができず、営業活動が佳境に入ったときのタイムリーな指示・指導ができませんでした。企業先人脈も組織ではなく個人に帰属していたため、営業職員が退職してしまうと関係が消滅していました。
このような課題を解決するために導入したのがSalesforceです。営業活動情報をデータ化、集約化して見える化し、営業職員全員が共有できるシステムとして構築しました。
Salesforceの活用は営業担当者が自分の行動を入力することからで、取引先と接点を持った際の行動の記録と、取引先から聴取したニーズの二つを入力するところから始まります。行動内容は営業方法、目的、同行者、顧客氏名などを選択回答式で入力します。ニーズは、物流、不動産、海外、ESG等の種別と、計画支援、不動産有効活用提案といった詳細概要、受付中、建築対応中、アセット対応中、対応済みなどの対応状況を選択します。
行動内容を入力することで、リアルタイムで上席や関係者と共有することができ、報告のための時間の節減と上司によるタイムリーな指示・指導が可能になりました。別の営業担当者による同じ客先への訪問の重複など、無駄な業務もなくせます。
入力した内容は、翌日の朝7時には前日分、毎週月曜日には前1週間分がレポートとして自動的にメール送信されます。日報、週報等が自動作成され、営業の振り返りを効率的に行えます。営業で最も大切なファクターである顧客ニーズについても、データ化、集積して分析することによりトレンドを把握し、組織的な対応を可能としています。
行動の実績は自動的に計上されるため、簡単に進捗を管理できます。入力された行動の記録は、取引先ごとのファイルに活動の履歴として、リアルタイムに時系列で蓄積されていきます。将来の活動予定についても、各人のスケジュール管理から自動的に反映されます。
収集されたニーズはSalesforceのトップ画面に表示され、営業担当者全員が共有できます。ニーズの種類によっては、関連する他の事業本部にも自動的にメール送信されます。ニーズをデータ化し共有することで、事業部内のマッチングの可能性を高めるとともに、事業部の垣根を超えた組織間の協力を効率的に行える仕組みが構築できました。
営業にとっての最終目標は受注目標の達成で、そのためには案件を積み上げ、各案件の確度アップを図っていくことが重要です。こうした管理にもSalesforceを活用しています。案件が発生する都度、チェックシートを使って、上司とその案件のポイントについて議論してクリアしなければならない項目を用意した約70項目の中から10項目程度選択し、共有します。各項目の達成状況の加重平均で案件確度を決定し、確度の低い案件はどれなのか、何をすれば確度を上げることができるのかを検証します。
営業の履歴は会社の財産として永遠に残せます。個人の活動の差異、支社・支店の活動の差異を実際の業績とも比較しながら、理想的な活動を探り、高いレベルでの営業活動の均一化を図っていきたいと考えています。
(西松建設株式会社常務執行役員建築事業本部副本部長・井上貴文氏、執行役員建築事業本部副本部長・成田和俊氏)
□日特建設株式会社/中期経営計画の実現に向けた、営業と技術の情報統合への挑戦□
当社は2020年度~22年度の前中期経営計画で「人的資源の確保と育成」「生産性の向上」「法面補修技術の開発」「新しい分野への挑戦」の四つの重要施策を掲げ、その中の「生産性の向上」の具体策として「事業の変革」と「組織的な営業展開」への取り組みを進めてきました。
事業の変革では「地盤改良の事業量拡大」と「法面工事の機械化施工」、組織的な営業展開では「情報・データの一元化」と「設計提案と営業案件のひも付け」を目標に設定し、この目標を実現をするためには、SFA(SalesForce Automation=営業支援システム)とCRM(Customer Relationship Management=顧客関係管理)が必要だと判断し、導入したのがSalesforceです。
フェーズ1として営業と技術の情報システムを統合して受注処理するまでのデータベースをつくり、案件と技術のひも付けの分析を容易にするなど的確かつタイムリーな支援を可能とする仕組みの構築を進めました。引き続き、名刺情報管理のシステムやスケジュールグループウェアをシステムに組み込んだうえで、フェーズ2として営業・技術に工事情報も加えて竣工までのデータベースを生成し、本年7月から運用を開始しました。
従来は、営業と技術のシステムが別々で、電話やメールなど営業にかかわるコミュニケーションも個人に閉じられていて、会社の資料として残っていないというの実情でした。Salesforce導入後は、情報がデータとして見える化され、関係者全員による情報の共有だけでなく、案件関係者以外との協力も可能となりました。さらにデータは、会社の資産として残るため二次利用もできます。
定量的な評価としては、主要事業の法面工事の規模を概ね維持しながら、22年度の地盤改良工事の受注量は20年度比で約48%増、補修工事は約21%増となり、中期経営計画で定めた目標値に対しても118%、108%を達成しました。
定性面では、前述したように全社的なコミュニケーションが加速したことで部所を超えた支援がすでに当たり前の文化となりつつあり、この新しい風土が資産として残っていくのではないかと期待しています。
また案件の進捗に合わせて、営業担当者がどのような渉外をしてきたということをSalesforceに入力すれば、上司などがリアルタイムに状況を把握し、適切なアドバイスをタイムリーに行えるようになりました。営業行動も、既知の顧客に行くスタイルから行くべき顧客へ注力訪問へと変革しました。
業績が向上したのは全てSalesforceを導入したおかげというわけではありませんが、一つの大きな力になったと実感しています。
今後、元積から原価・収益管理、工事概況報告、工程管理、完成工事管理までSalesforce上で行えるよう工事支援システムの刷新、強化を図るとともに、当社の財務会計の基幹システムとも連携させ、1プラットフォームのシステムに改良します。
Salesforceには終わりはなく継続的に改善してより利便性を高め、システムを利用する社員の満足度、関心度を向上させていく必要があると考えます。来年度からビジネスKPI(重要業績評価指標)を設定して中期経営計画に反映させる方針で、1プラットフォームとのSalesforceを全社に浸透させながら業務スタイルを変革を促すなど、会社の発展に向けた取り組みに注力していきます。
(日特建設株式会社常務執行役員技術開発本部長・菅浩一氏)
□株式会社セールスフォース・ジャパン/営業DXによる一気通貫プロセス改革:建設業界での生産性向上の鍵□
国内の建設投資は、コロナ禍の需要減から回復傾向にある一方、原材料や輸送費、人件費の高騰を受けて、営業利益率は減少傾向にあると言われています。また2024年問題への対応として、働き方を組織と個人の両方で変えていく必要があり、労働時間の上限規制や正規・非正規の同一労働同一賃金、それから月時間外の割増賃金の引き上げなど下請けモデルやプロジェクトの組み方に影響が出てくると思われます。
Salesforceは、顧客情報を軸に営業情報、プロジェクト情報、従業員情報などあらゆるデータをシステム的に統合し、生産性向上、投資対効果の最大化、働き方改革など経営基盤の強化につながるさまざまな価値を提供いたします。
建設業界は、設計部門や現場ではデジタルシフトが進んでいますが、営業部門ではまだ、アナログな業務環境で情報が属人化している、取引先キーマンなど必要な情報が把握しづらい、プロジェクトのリスク検知ができない、など改善すべき点が多いように見受けられます。
営業の生産性を上げるには、やはりデジタルの活用、データ起点の営業活動が必要で、根拠となるデータを用いることで、より生産性高く営業活動を行えるようになります。
データ起点の営業に必要なのは、一つ目は「取引先管理」です。一元化されたデータの中から必要な情報を取得した上で、顧客の動向把握、顧客先キーマンへのアプローチ、アカウント戦略的営業などに活用します。
二つ目は「営業活動」です。フェーズ管理による属人化を排除した適切な案件管理により、抜け漏れやばらつきの無い案件推進、積算部門をはじめとする営業部門外との連携を可能とします。
三つ目は「プロジェクト管理」です。受注後の適切なマイルストーン管理、情報分析に基づいたプロジェクトへの人材の割り当て、低利益案件への早期対応などを実現します。
このようにSalesforceは商談管理・入札管理から協力会社連携、プロジェクト分析、リソース分析、データ分析と洞察まで一気通貫で営業プロセスを改革し、生産性の向上に貢献、経営合理化に貢献いたします。
株式会社セールスフォース・ジャパンインダストリーズトランスフォーメーション事業本部コンシューマービジネスサービスディレクター・國本久成氏、ソリューション・エンジニアリング統括本部B2Cソリューション本部プロフェッショナルサービス・TTH部シニアソリューションエンジニア・万木孝幸氏)