◇デベロッパー各社、受入場所整備進む
昼間人口が多い東京都心部が震災に見舞われた場合、オフィスビル就業者の安全確保や帰宅困難者への対応が重要課題になる。デベロッパー各社は関東大震災や2011年の東日本大震災の教訓を糧に、ハード・ソフト両面で対策を強化してきた。新築はもちろん、既存ビルでも耐震補強工事や、帰宅困難者受け入れスペースの整備が進展。専門の研修施設を開設するなど、現場職員の人材育成に力を入れる事業者もある。
東日本大震災では周期が長く揺れ幅も大きい「長周期地震動」により、超高層ビルの上層階が長時間揺れた。三菱地所は教訓を踏まえて長周期地震動対策の強化を決定。サンシャイン60(東京都豊島区)では施工者の鹿島を交えた研究会を立ち上げ、効果的な耐震補強対策の方法を探った。
検討の結果、3種類のダンパーを組み合わせて揺れを吸収する「ダンパー組み合わせ工法」を採用。16年に工事を終え、最新の超高層ビルと同等の制振性能を実現している。
森ビルも長周期地震動対策の一環で、今秋以降順次開業する麻布台ヒルズ(港区)に過去最高レベルの制振装置を導入している。03年に開業した六本木ヒルズに倣い、粘性のオイルダンパーと鋼材系のブレースを組み合わせて導入。粘性体を内蔵して振動エネルギーを吸収する壁状の制振装置「粘性体制振壁」も加え、東日本大震災クラスの地震が来ても事業継続が可能な耐震性を確保した。
東日本大震災では公共交通機関の多くがストップし、駅周辺に帰宅困難者があふれた。以降、大規模開発では受け入れスペースの確保が大きなテーマとなっており、例えば東急不動産らが19年に整備した渋谷ソラスタ(東京都渋谷区)はロビー部分が受け入れスペースとして機能する。数日分の備蓄食料も用意している。
もっと以前に建設されたビルを改修し、スペースを確保した事例もある。住友不動産は1974年竣工の新宿住友ビルに大規模改修を施し、低層部の周りに全天候型のアトリウム空間「三角広場」を整備。震災時は帰宅困難者2850人の受け入れが可能だ。3日分の飲料水や携帯食、簡易トイレ、毛布なども備蓄している。
三井不動産は震災時の初動対応に当たる現場人材の育成に力を入れている。2020年、千葉県柏市に「三井不動産総合技術アカデミー」を開校。火災の消火や被災者の救助など、30種類の訓練ができる環境を整えた。
初動対応に当たる施設管理者には消防からの期待も大きい。東京消防庁芝消防署の喜多洋樹署長はデベロッパー各社を「マンパワーが大きく、非常に頼りにしている」と高く評価。「近年は訪日外国人も多く、災害時は案内が豊富な施設内に集まってきがちだ。こうした(外国人対応の)面でも、力をお借りしたい」とコメントしている。