95周年特集/対談/和田信貴国交事務次官、宮本洋一日建連会長 2

2023年10月16日 特集 [3面]

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 ◇和田氏/本来あるべき姿から外れたところ改める
 ◇宮本氏/日本のためにみんなでいいものつくる時代に

 適正な労務費を確保する上で「標準労務費」の設定をすることが望ましい。これまで標準賃金、最低賃金といった指標がなく、どれだけの賃金が数次下請の技能労働者に支払われているかが不透明だった。それをCCUSなども活用し、きちんと見える化していく。一連の取り組みで重層下請の問題もより明確になるのではないか。われわれもお願いするばかりではなく自ら行動しつつ、政府には公平公正にやっていただきたい。

 和田 時間外労働の罰則付き上限規制が適用されるいわゆる「2024年問題」は、国交省内では建設業と物流業が関わる。両業界は構造や課題がかなり似通っており、省内の担当部局がそれぞれの業界で取り組んでいる施策を勉強し合い、参考になるところをうまく取り入れる。まさに先ほどの「標準労務費」の話は物流業界の標準的運賃がベースにある。
 基本問題小委で提言された施策を適切に進め、建設産業をより良くするためには、一連の取り組みを適正にウオッチする人たちも必要だ。来年度の定員要求では、官民の大規模工事を対象に請負契約で工期や請負代金が適切かどうかを監視する調査担当者「建設Gメン」を大幅に増員していく。

 □公共・民間投資で経済回し安定的産業へ□

 宮本 工事の契約内容について、日建連としては個社それぞれが適正、適切な形で対応するようにと考えている。このまま手をこまねいていては技能労働者が減り、ひいては協力業者がいなくなり、建設産業が持続可能でなくなってしまう。そうした問題意識を顧客企業と共有し、理解をより深めたい。もちろんわれわれも生産性向上の取り組みをさらに推し進め、DXやRX(ロボティクストランスフォーメーション)などで人手をかけない施工方法を積極的に導入していく。

 和田 技術開発の分野も含め、いろいろな形でサポートしていきたい。持続可能で安定的な建設産業とするには投資の観点も重要であり、まずは公共投資をしっかりと確保しなければならない。基本的な経済情勢として需給ギャップはだいぶ縮まっており、むしろ供給量を増やす必要がある。物価が上昇しているので供給力を高めないと経済が回っていかない。例えば高機能な道路ができれば当然、輸送時間が短くなる。国民の生命や財産を守ることと合わせ、いろいろな形で公共投資は日本経済に貢献している。
 建設投資の大半を占める民間投資も重要だ。来年は固定資産税の3年に一度の評価替えの年であり、負担の緩和措置が大きな課題となる。事務所ビルや商業施設の保有者はもちろんだが、社会全体の投資行動にも影響が出てくる。しっかりと税制に取り組むことで、民間投資がうまく回っていく。社会的な位置付けや役割が近年大きくなっている物流倉庫への投資喚起には税制だけでなく、予算面でも施設の高機能化、高度化を支援する。インバウンドなど観光分野での消費額を増やすため、旅館やホテルのグレードアップに向けた改修や建て替えも後押ししていく。

 □CNやDX対応で技術革新を加速□

 宮本 今後の未来を見据え、避けて通れないのは2050年のカーボンニュートラル(CN)達成だろう。CNで建設業がどのような役割を果たしていくのか。これまでは建設現場で発生する二酸化炭素(CO2)を減らすことに注力してきた。建機やトラックなどの車両関係はもちろん、資機材の生産などあらゆる過程でCO2が排出されており、サプライチェーン(供給網)全体のCO2排出量を明示する仕組みが求められる。
 日建連では、7月にCN実現に向けた推進方策を策定し、軽油代替燃料または革新的建機の普及を前提に施工段階のCO2排出量を30年度に13年比で40%削減する目標を掲げるとともに、50年までのロードマップを策定したので、今後これに従って重点施策を積極的に展開していきたい。国内外でCN関連の取引市場を創設する動きが広がっているが、真に意義あるものを期待したい。われわれもグリーンなエネルギーや資機材を使うための提案営業が重要になる。

 和田 化石燃料を使っている機械を電動化することもCN達成には必要だが、重量物を扱う建設機械ではトラックなど現場に出入りする重車両も含め、完全電動化はそう簡単にいかないだろう。建設機械の自動化や遠隔化もまだまだ場数を踏みながら、普及に向けた改良、改善を進める段階だ。他産業の技術革新に期待するところも大きいが、自動車行政と建設行政がうまくタイアップしながら、オール国交省でしっかり取り組む。
 現場の技術革新を進める上でBIM/CIMの普及は重要で、DXによって設計・施工分野の合理化を図る。科学技術関連の予算がある内閣府などとも連携し、関連技術の研究開発を支援していきたいと考えている。宇宙開発の分野では月面でさまざまなものを造るため、実装に向けた実験を進めている。建設業の新たな道の一つになればと思っている。

 宮本 日建連など関連団体の寄付により東京大学に「i-Constructionシステム学寄付講座」を開講している。目的の一つは現場のIT活用の取り組みを、共通のプラットフォーム上で動かすこと。個社では技術開発も、公共工事などへの導入も難しいが、こうした仕組みは新技術の開発や実装を促し、DXの推進にも有効だ。日建連会員企業らが主導する「建設RXコンソーシアム」のように同業他社が協働で取り組む動きも広がりつつある。これからは「日本のためにみんなでいいものをつくろう」という時代になる。

 □競争力強化し働き手に魅力ある国に□

 和田 一昔前までは世界の中でも日本のGDP(国内総生産)は大きく、日本企業も単独で事業や研究開発を自由にできていた時代だったかもしれない。今は一企業で全てを抱えることは難しく、規模が大きくなるほどリスクも高まる。建設業も含め、共通化できるところは一緒に開発し協力し合うことが、日本全体の競争力を強化することにつながる。日本の経済や社会を強くし、働き手に魅力ある国にしていかないと、外国人材も来てくれなくなる。

 宮本 少子化で労働人口が減り続け、外国人材に頼らざるを得なくなるのは世の流れだろう。それには日本人と同等の処遇にすることはもちろん、日本で暮らすための社会保障やルールなど、本当の意味で対等の立場で共に働く環境にしなければならない。

 和田 建設業は100年後も残るものづくりで大きな使命と役割を担っている。そこで働く人たちには責任ある仕事への誇りと夢を持ってほしい。われわれも持続可能な建設業となるよう支援していく。

 宮本 建設業の活躍する領域は地球上にとどまらず、宇宙へと広がっていくかもしれないが、場所や形は違っても必ず人々の役に立つものを造っていることに変わりはない。次代を担う若い人たちには建設業で一緒に働き、そうしたものづくりの喜びを体感してもらいたい。