◇魅力を高め持続可能な産業へ
「地域を守る建設業の未来ビジョン」をテーマに、首相補佐官として国土強靱化などを担当する元国土交通事務次官の森昌文氏と、全国建設業協会(全建)会長の奥村太加典氏に対談してもらった。社会資本整備や自然災害への対応などに地域建設業は大きな役割を担っている。一方で物価高騰や担い手不足など経営環境は依然厳しい。森、奥村両氏は、経営の安定化や働き方改革、生産性の向上、地域貢献の在り方などについて意見を交わし、これからの持続可能な地域建設業を展望する。
□将来の計画を見通せる環境づくり□
奥村 災害が激甚化、頻発化、広域化している中、地域建設業の役割はどんどん増している。だが物価上昇などもあり、安定的な経営環境の下で将来にわたり存続していくには決してやさしい時代ではない。
例えば都心に居住する人々からは、地域建設業が公共投資で守られていると見られているかもしれない。では何のために守られているのか。それは日本の国土を守るのに必要な業種、人たちだからであり、われわれ業界団体はそうしたことに理解を深めていただくための取り組みが必要と考える。地域建設業の存続のためには働き方改革や処遇改善なども進め、それぞれの地域で若者が建設業に入職し、幸せな生活を営みながら、地域を守ることに貢献してもらえる形を早く作っていかなくてはならない。
森 以前から建設業には人手が足りない、若い人が入職しないという課題があった。さらに資材高騰などで経営環境が厳しく、経営者が努力していく道は一層険しくなっている。
先の通常国会では国土強靱化基本法が改正され、全体予算の枠取りを法制化して位置付けた。これにより安定的、計画的に国土強靱化の方策を講じていけることになった。同時に地域建設業にとっては経営の安定化や、将来的な計画も見通すことのできる環境をつくるのに役立つのではないかと考える。地域の安全と経済を支える建設業の歯車をきっちり回すことにつながっていくと期待している。
奥村 改正国土強靱化基本法が成立したことは希望の光であると思う。日本の国土を継続して強靱化することが目的であり、これがひいては地域建設業の安定化につながる。地域建設業というのは事業を行う場所を簡単に変えられない。生産するのは現地であり、会社の事業そのものが生産現場を含んだエリアとなる。そうした中で会社を存続させていかなくてはならない特殊性がある。国土強靱化をはじめ安定的な公共事業予算の執行により、結果として地域建設会社の経営が安定していくことが望ましい。
□働き方改革へ「2+360運動」を展開□
森 政府は昨今の円安やデフレからの脱却を目指し、経済の好循環実現へ向け、企業に賃上げをお願いしてきている。賃上げを実施する企業については公共事業でしっかり評価させていただいているが、それが民間での請負契約にも遡及(そきゅう)していくことを願っている。
奥村 公共事業では11年連続で設計労務単価を上げていただき、製造業の賃金水準に近づいてきているが、労働時間を加味するとまだ差があり、賃上げにつながるさらなる引き上げをお願いしたい。建設業は2024年4月に迫っている時間外労働の罰則付き上限規制への対応も必要で、それらを踏まえた工程での発注を要望している。国には先鞭(せんべん)を付けていただいているが、地方自治体や民間に波及する取り組みをさらに強化してほしい。全建は完全週休2日の実現と年間の時間外労働を360時間以内に抑制する「2+360(ツープラスサンロクマル)運動」の展開を通じ、労働条件の改善などに引き続き取り組んでいく。
森 継続的な賃上げや時間外労働の削減、現場の完全週休2日の実現には、労働生産性を上げていくことがどうしても必要になってくる。特に高齢者の割合が増えてきている建設業の大きな課題であり、生産性向上へさまざまな方策を講じていかなくてはならない。大手だけでなく中小の方々にも取り組んでいただくことがぜひとも必要であり、政府としてもしっかりと応援していきたい。労働生産性を上げ、その成果が労働者に還元されていくのを期待している。
奥村 新しいことや技術的に高度なことへの取り組みは大手企業からスタートするというのが一般的かもしれない。しかしDXに関しては、規模の小さな会社であってもその気になって取り組むと方向転換も含めてものすごく速いスピードで進んでいく。既に全建会員の中にはDXやBIM/CIMに積極的に取り組んで大きな成果を上げている会社もある。毎年の全建技術発表会でも先進事例が発表されている。地方企業だからできないというのではなく、業界を挙げて一緒に走っていくことが重要だと思っている。
森 そうした建設業の取り組みに対し、私たちがどういう支援策を講じていけばいいのかについてぜひ提案してほしい。BIM/CIMの議論をする前提として、もともと図面も電子化されていなくては駄目だと言い出してからだいぶたつ。電子納品も実際に公共工事で導入されている割合はまだ低い。でもそれらができて初めてメンテナンスや修繕の段階なども含めたBIM/CIMの実現につながっていくはずだ。
奥村 私たち建設業は施工段階で努力するが、本来であれば最上流からBIM/CIMを適用するのが一番効率的なことであり、ぜひ設計段階からの取り組みを推進していただきたい。