95周年特集/対談/和田信貴国交事務次官、宮本洋一日建連会長 1

2023年10月16日 特集 [2面]

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 ◇根幹の人づくりで官民協働
 人口減少や物価高などさまざまな課題が顕在化する中、建設業界では従来の産業構造や商慣行の見直しといった変革が急務となっている。こうした社会的背景を踏まえ「持続可能な建設産業の未来ビジョン」をテーマに、国土交通省の和田信貴事務次官と、日本建設業連合会(日建連)の宮本洋一会長に対談してもらった。両氏ともに建設業の根幹をなす人づくりを喫緊の課題とし、業界側の自助努力と併せて官民の発注者との協働を重視。持続可能な明るい未来の実現に向け、今後の重点施策や変革の方向性について意見を交わした。
 □価格転嫁や人材確保の対応急務□

 宮本 足元の市場環境を見ると、日建連会員企業の受注高は民間・官庁工事ともに堅調に推移している一方、各社の決算ではほとんどが減益となり、建設物価の急騰が影を落としている。物価高についてはロシアのウクライナ侵攻に加え、中国でコロナ禍による影響がまだ尾を引いており、請負価格への転嫁が十分できていないのが現状だ。
 こうした突発的な課題だけでなく、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少といった日本社会が抱える問題も深刻さを増している。2015年3月に日建連が掲げた「建設業の長期ビジョン~再生と進化に向けて」でも担い手の確保・育成を重点課題とし、いろいろと手を打ってきたが減少傾向に歯止めはかかっていない。他産業との働き手の取り合いが見られる中で、これからの人材確保をどうしていくか。生産性の向上と合わせて対応を進めていかないといけない。

 和田 建設分野での適正利潤や人材の確保などに向け、公共工事品質確保促進法(公共工事品確法)と建設業法、公共工事入札契約適正化法(入契法)を14年に一体改正し、いわゆる「担い手3法」として各種施策を進めてきた。直近の19年の改正により、働き方改革や生産性向上などの推進を軸とする「新・担い手3法」として取り組みを強化している。
 同年には技能者の処遇改善や地位向上に貢献する「建設キャリアアップシステム(CCUS)」の運用を開始し、改善、改良を加えながら官民協働で普及を図っているところだ。労働者の賃金アップについても、適正な予定価格にするため、公共工事設計労務単価を11年連続で引き上げた。日本の産業全体が共有する人手不足の問題に対しては、これまでの施策を継続強化するとともに、新しいことにも取り組まなければならないと考えている。

 宮本 昨今の物価高については、官側ではスライド条項の適用のほか、労務や資材の単価見直しといった手だてを講じていただいている。一方、民間工事ではこれまでの受発注者間の取引慣行などから、価格転嫁が進みにくい状況にあり、私自身も委員として参加する国の中央建設業審議会(中建審)などの場で説明してきた。
 工事を発注する顧客企業と交渉を進める際、対等な関係とは言い難い状況にあると認識している。中建審で決まった民間建設工事標準請負契約約款を適用せず、使っていても協議条項などを削除しているケースが見られる。契約の在り方を正すことが、働き方改革や処遇改善などの取り組みの根本にある。国交省の直轄工事のようにルールにのっとり、対等な立場で協議できる環境づくりをお願いしたい。

 □受発注者で契約の在り方を公平公正に□

 和田 岸田政権の基本認識として「成長と分配の好循環」を作り上げるため、きちんと賃金が払われ、(高騰した)ものの値段が適正に転嫁されなければならない。こうした大きな流れの中で、建設業が抱える問題をどう解決するか。昨年度末の「持続可能な建設業に向けた環境整備検討会」での提言を受け、本年度からは中建審と社会資本整備審議会(社整審)産業分科会建設部会の基本問題小委員会で議論を進め、9月に中間取りまとめが示された。同月には斉藤鉄夫国交相と日建連など建設業主要4団体幹部との意見交換会を開き、技能労働者の賃上げや工期の適正化を官民一体で強力に進めることを確認した。
 大きな取り組みの方向性は「請負契約の透明化による適切なリスク分担」「適切な労務費等の確保や賃金行き渡りの担保」「魅力ある就労環境を実現する働き方改革と生産性向上」の三つ。民間・公共工事ともに受発注者双方が相手のことを必ずしも100%分かっておらず、互いにリスクを負っている。予備的経費の考え方なども含め、契約する過程で互いを理解し合う必要がある。
 民間同士の契約に政府が直接介入するものではないが、民間契約約款の取り扱いなど本来あるべき姿から外れているところは改める。さまざまな事情が契約後に変わり、問題が生じた時、協議に全く応じないのはいかがなものか。そうした問題点を一つ一つ指摘し、中建審などでの議論を経て施策の具体化、制度化を進めていく。

 宮本 これまでの慣行が染み付いた民間工事での受発注者の関係はそう簡単に変わるものではない。突貫工事による厳しい工期設定や見積もり合わせによる価格競争など、工事を発注する民間事業者側の要望や対応もさまざま。官の力を借りないと解決が難しい問題はあるが、請け負う側も自身の問題としてきちんと対応することが大切だ。著しく短い工期や労務費を確保できない請負額などといった問題に対して粘り強く交渉し、その過程や内容を対外的に見えるようにすることが必要だろう。われわれ元請と協力会社ら下請との契約も同様だ。