2024新年号/業界展望・2、建設産業行政・契約や働き方の慣習見直しへ

2024年1月1日 特集 [12面]

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 時間外労働の罰則付き上限規制の適用を目前に控える建設業界。建設資材の価格高騰も落ち着く気配は見えていない。山積する喫緊の課題への対応が求められる一方、長期的な視野で将来の担い手の確保・育成に取り組むことも忘れてはならない。持続可能な産業構造をつくり上げるため、これまで当たり前とされてきた請負契約の在り方や、働き方に関する業界慣習の見直しが迫られている。
 建設業行政としての対応の方向性を指し示すのが、中央建設業審議会(中建審)と社会資本整備審議会(社整審)合同の基本問題小委員会の中間取りまとめとして国土交通省が9月に公表した施策内容だ。建設業法などの改正が必要な事項も盛り込まれており、今月開会する通常国会への法案提出を視野に入れる。
 請負契約では総価一式に代表される既存の取引慣習にメスを入れる。キーワードは「透明化」だ。受注者によるリスク情報提供を義務化するなど、受発注者間で契約時に生じる情報の非対称性を解消。契約書への法定記載事項を見直し、物価変動などリスク分担への対応を明確化する。
 建設業法の規定で大きく見直すのは「不当に低い請負代金の禁止」。違反した場合の勧告対象として公共発注者だけでなく民間事業者(民間発注者や元請といった注文者)も含める。さらには受注者による不当に低い請負代金での契約締結も禁止し、指導や勧告の対象とする姿勢を打ち出す。
 受発注者間や元下間でのダンピング行為は労務費へのしわ寄せとなりやすく、従来の競争環境下では技能者の処遇改善に取り組む企業が必然的に不利な立場に置かれてきた。こうした業界構造を変える制度面からのアプローチとして、労務費を原資とする廉売行為を制限するための指標となる「標準労務費」を新たに設定する。
 標準労務費は他産業にも類似例が見当たらない新たな概念であり、その具体化の道筋を現時点で見通すのは難しい。中建審の場では建設業団体から、技能者の処遇改善への期待の声とほぼ同じく、実効性を懸念する声が上がった。その理念を法制度に明文化するにとどまらず、民間工事を含めた実際の請負契約で機能させるため「オール建設業」での具体化が求められる。
 中建審が作成・勧告した「工期に関する基準」についても、理念的な色合いが強い現行規定を見直し、より具体的で実効性の高い仕組みにするための議論が始まった。上限規制の適用が迫る中でも工期不足に起因し、現場の働き方改革が進んでいないことを問題視する声は多い。ICTを活用した現場管理の効率化を促す法制度上の対応なども想定されている。
 国交省幹部や業界関係者からは、上限規制の適用を「ピンチと捉えず、むしろチャンスに」という呼び掛けが盛んに聞かれる。厳しい状況に直面しているからこそ、その教訓を生かし、今後の荒波も乗り越えられるような備えを講じる必要がある。この1年の成果は建設産業の未来を大きく左右することになりそうだ。