スコープ・業務効率化/グラウト協会、施工データをデジタル管理・26年度本格運用へ

2024年7月11日 企業・経営 [10面]

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 日本グラウト協会(立和田裕一会長)は、地盤改良の薬液注入(グラウト)施工データをデジタル化する。協会認定の流量計から集積装置に送られたデータを協会専用クラウドに保存する仕組み。大量の紙で保存しているデータの管理を容易にし、コスト削減や受発注者双方の作業負担軽減に役立てる。クラウドにはブロックチェーンの技術を組み込み、データ改ざんによる施工不良を防ぐ仕組みも構築する。今後は現場での試験運用やホームページ(HP)開設の準備などを経て、2026年度の本格運用を目指す。
 グラウト工法は、1990年1月に東北上越新幹線東京~上野間の建設工事で発生した流量管理方法の不正を受け、同年の建設省(現国土交通省)通達で施工管理方法が厳密に定められている。同工事では地中に注入する薬液量が改ざんされ、工事で使用した圧縮空気の封じ込めに失敗、地表に噴出し道路が陥没するなどの被害が発生した。
 通達では薬液注入量と注入圧を流量圧力管理測定装置(流量計)で計測した後、特殊なチャート紙に記録し保存するなどの措置が定められた。この記録方法は30年以上変わっていない。
 実際の施工では1件当たり段ボール箱で複数個分のチャート紙が必要になり、発注機関の監督職員が立ち会った際はサインや検印も行う。薬液量が規定通り注入されているか調査するため、膨大なチャート紙から当該箇所を探すだけでも相当な時間がかかる。
 チャート紙の劣化防止や保存場所の確保も大きな課題だ。チャート紙をスキャナーに取り込みデータをデジタル化する方法もあるが、スキャンする量が膨大なため大きな時間と労力を要する。
 協会はこうした状況を改善するため、2021年10月にDX推進委員会を立ち上げ、施工データをチャート紙からデジタル管理に見直すよう検討している。
 デジタル管理では、チャート紙に記録する薬液の注入量と注入圧を協会が認定した流量計で計測し、デジタルデータとして注入結果票と注入結果グラフ(デジタルチャート)に記入。その後、データ集積装置を経由し協会専用のクラウドサーバーにアップロードする流れ。グラウト工法の施工方法自体はこれまでと変わらない。
 デジタル化するとパソコンやスマートフォン、タブレットでクラウドサーバーにアクセスでき、時間や場所を問わずデータを閲覧できる利点がある。発注機関の監督職員もオフィスからデータを確認し、デジタルサインで署名できるため現場へ赴く必要がなくなる。海外現場のデータを日本で確認することも可能。デジタルデータは3Dグラフ化や帳票へ記載することもでき、情報管理が容易になる。
 セキュリティー対策にも万全を期す。デジタルデータ改ざんを防ぐため、データ集積装置を経由しクラウドサーバーにアップロードする際、協会が特許を取得したブロックチェーン方式を用いる。内容を改ざんすると、前後のデータとの整合性が取れなくなる仕組みだ。アップロード後のデータ変更はできない。データはアップロードされた日時が記録されるため、実際の施工日時と照合することによりデータの信頼性を確保する。
 協会はDX推進委の発足後、クラウドシステムの構築や特許取得などを経て、23年度から会員が施工する現場で実証中。24年度に元国交事務次官の佐藤直良氏をトップとする検証委員会を立ち上げ、システムの有効性やデバッグ(ソフトウエアの問題特定)などに取り組んでいる。
 今後は試験運用の対象現場も広げる。システムの規約策定や薬液の濃度測定流量計製作、システム活用の窓口設置、HP開設などを進めていく。全国で約6000台使用されているチャート紙用の流量計を、デジタル化に対応した機器へ順次切り替えながら、26年度に本格運用を始める。
 本格運用に当たり、現場で用いる流量計の電源確保が課題になる。仮に発電機を使う場合、安定した電力・電圧を得るため整流器を取り付けるなどの改良を想定する。クラウドサーバーの維持にはコストがかかるため、利用者から使用料を徴収して賄う。
 立和田会長は「薬液注入工法の非効率な記録方法を何とかしたいと思っていた。人間が施工するので不正や間違いが起こる可能性は否定できないが、それらをなくすと同時にデータ整理の簡略化を実現し、省人化や働き方改革につなげていきたい」と話す。国交省に土木工事積算基準への反映も働き掛けつつ、グラウト工法のDX化を推し進める。