スコープ・能登半島地震/水産庁、漁業地域復旧・復興の技術的考え方

2024年7月18日 行政・団体 [10面]

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 ◇地盤隆起の規模別に選択肢
 水産庁の有識者検討会が、能登半島地震で被災した漁港の復旧・復興の技術的な考え方をまとめた。地震で発生した最大約4mの地盤隆起などの被害に対し、隆起に応じた復旧の方策や復興を進める上での「重要な視点」などを技術的な観点から示した。被災地は漁港を管理する地方自治体の復旧・復興計画の検討が進みつつあり、地域のなりわいの漁業と生活の再建を後押しすることになりそうだ。
 被害が集中した石川県は、県内69漁港のうち60漁港が被災した。半島西側の外浦は地盤隆起で泊地の利用が困難な漁港が多く、東側(富山湾側)の内浦は地震動と津波の被害が目立った。
 輪島市や珠洲市など半島北部を中心に、甚大な被害が出た漁港は16カ所。一部で水揚げが再開されているものの、地盤隆起で漁船が航行できなかったり、係留施設の損傷があったりすることで、機能が著しく損なわれた漁港がある。管理者の県に代わって直轄の航路啓開などが進行中。優先的な仮復旧が求められている漁港が5日時点で10カ所あり、うち4カ所で仮復旧が始まっている。
 水産庁は、過去の災害から地震や津波の復旧・復興を巡る技術的な知見はあるものの、地盤隆起は経験がほとんどなく、有識者会議で対応を議論することにした。「2024年能登半島地震漁業地域復旧・復興技術検討会」(委員長・岡安章夫東京海洋大学副学長)を設置。5月16日の初会合を含めて3回会合を開き、7月5日に考え方を公表した。
 考え方は、「短期的な生業再開のための仮復旧」と「中長期的な機能向上のための本復旧」に分け、地盤隆起の最大・中・小の規模ごとに方法の選択肢を列挙した。
 隆起が最大の場合、仮復旧は▽港内を掘り込んだ上で船揚場や仮桟橋(物揚場)を設置する案(中規模・小型漁船対応)▽海面に仮桟橋を設置(中規模漁業船対応)▽海面までの斜路(船揚場)を設置(小型漁船対応)-を選択肢とした。本復旧の選択肢は▽港内を掘り込み、既存の防波堤などを活用▽沖合の水深のあるエリアを利用▽隣接する港外エリアを利用-の三つ。
 沖合を利用する案は、既存の地形と防波堤を生かしたまま、水深のある港口に漁港施設を沖出しし、港内の隆起部は物揚場や陸上用地として使う。大きな漁船を受け入れるための対応が容易だという。
 復旧・復興を検討する上では、施設の適正化や機能の集約を含めた「漁港の役割分担の見直し」や、液状化対策などを施す「水産地域の強靱化」など七つを重要な視点に挙げた。さらに「評価の考え方」として、仮復旧と本復旧それぞれについて、工期、工事費、施工性などの留意事項を明らかにした。
 浚渫の海上施工と陸上施工、岸壁・物揚場の天端切り下げ、堤体の前出し(拡幅)の設計の留意点も盛り込んだ。費用の算出が必要になるため、浚渫1立方メートル当たりのコストを施工方法別に参考表記した。計画から工事までの手順とポイントも分かりやすく紹介している。
 考え方をまとめた5日の会合後、岡安委員長は「漁業者、漁港、(管理者の)市町の意思を確認しながら進めるのが大事」と述べ、地域の意向と判断に基づく復旧・復興を進めることの重要性を強調した。水産庁の中村隆漁港漁場整備部計画課長は、地域主導の復旧・復興に役立ててもらうために考え方をまとめたことを説明した上で、引き続きの支援に意欲を見せた。
 石川県は6月27日に地域の復旧・復興の羅針盤となる「創造的復興プラン」を策定した。7月5日には県が管理している地域の中心的な存在の輪島港の短期復旧方針を公表。水産庁の考え方も参考に、2、3年を目安に現位置で段階的な復旧を進める考えを表明した。被災漁港がある市町の計画検討も順次進む見通しで、行方が注目される。

 □能登の復興が被災した半島地域のモデルに/福平伸一郎石川県漁業協同組合専務理事□
 輪島市や珠洲市は地盤隆起が目立つ漁港がある。製氷設備や荷さばき場など陸上の建物が被害を受けた漁港は多く、臨港道路の亀裂や岸壁の段差なども発生した。1月中に水揚げを再開した漁港が一部にあり、港内の浚渫や修繕などに建設会社が主力になってくれている。地元業者やゼネコン、マリコンにとても感謝している。
 漁港を早く直さないと、なりわいである漁業の担い手が困ってしまう。船も家もなくしたり、どちらかを失ったりした仲間がいる。仮設住宅で暮らしている人がいて、「同じ地震が来るかもしれない」と不安な乗組員や、船を手放すか考えている人もいる。各支所が事業継続の調査を行っている。
 県や国が支援や検討を進めてくれている。漁業者の立場では少しでも早く本業を再開できるようにしてほしい。重機1台、作業員1人でも増やしていただきたい。能登の復興は、被災した半島地域のモデルになるだろう。どうするかは地域で考えていくことになる。水産業の復活なしに能登の復興はない。われわれも全力で頑張っていきたい。