法定点検義務化10年・1/持続可能な道路メンテ体制へ、予防保全対応は低調

2024年7月29日 行政・団体 [1面]

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 2012年12月に山梨県の中央自動車道笹子トンネルで起きた天井板落下事故を受け、14年7月に道路構造物の法定点検が義務化され今年で10年。5年に1回の定期点検も3巡目に入った。高度成長期に建設された道路インフラの老朽化が進む中、災害リスクは一段と高まっている。国が関連技術の開発・普及や点検合理化、道路メンテナンス助成といった施策を打ち出す一方、地方を中心に人材・予算不足が深刻化。災害抑制やコスト削減効果が見込まれる「予防保全型」の維持・修繕など、持続可能なインフラメンテナンス体制への転換が急がれる。
 (「法定点検義務化10年」取材班)
 国土交通省は13年を「インフラメンテナンス元年」と位置付け、道路法を改正し、予防保全の観点から道路の点検や維持管理の在り方などを明確化した。道路法施行規則も改正してトンネル、橋梁などの点検を近接目視で5年に1回の頻度で行う取り込みが14年7月に始まった。点検結果に基づき健全性を4段階で区分する。
 1巡目(14~18年度)の点検結果を踏まえ、国交省は点検内容を合理化する要領を19年2月、道路管理者らに通知した。国交省は直轄国道で22年度からトンネルと橋梁、23年度からは舗装を対象に「点検支援技術性能カタログ」の活用を原則化。新たな技術の導入により、道路点検の効率化を図っている。
 法定点検は2巡目(19~23年度)を終え、本年度から3巡目に入った。点検の実施率が着実に向上しているものの、修繕などの措置の着手率が伸び悩む。特に市区町村の修繕措置の遅れが目立つ。直近の着手率は国がトンネル、橋梁ともに6割を超えるのに対し、市区町村はトンネルが約4割、橋梁でも5割程度にとどまる。
 このペースで修繕を進めても、予防保全型への移行に約20年を要するとの見方もある。国交省は予防保全への転換により30年間の維持管理コストを3割削減できると試算している。
 国交省は自治体を技術面で支えるため、各地方整備局に設置する「道路メンテナンスセンター(MC)」の組織を拡大、強化している。関東地方整備局の野坂周子道路部長は、「維持管理のノウハウを改築や新設の計画段階から盛り込むような大きなサイクルを確立する」とMC充実の狙いを説く。
 技術系職員がゼロという自治体も少なくない。野坂氏は「老朽化した橋にどう対処するか、どう工事につなげていくか判断できる職員をきちんと育てていく」と指摘。人材育成もMCの重要な役割に据える。
 インフラを管理する自治体が問題を認識し、能動的に課題解決に取り組まなければいけない。産学官で組織するインフラメンテナンス国民会議の下に、「インフラメンテナンス市区町村長会議」(代表幹事・高橋勝浩東京都稲城市長)が22年4月に発足した。メンテナンスに関心の高い市区町村の首長が参画している。
 市区町村長会議には全国の6割超の自治体が参加しているものの、関東ブロックは1割弱にとどまるなど地域ごとに温度差がある。市区町村長のリーダーシップによる効率的、効果的なインフラメンテナンスの推進が求められる。
 道路構造物の法定点検義務化10年を機に、日刊建設工業新聞は高速道路各社、関東圏の自治体ら道路管理者にアンケートを実施した。調査結果を踏まえ、道路構造物のメンテナンスの現状と今後を展望する。
 (次回以降は2面に掲載します)