スコープ・上限規制順守/専門工事業、時間外労働削減へ奔走

2024年8月20日 行政・団体 [10面]

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 □特殊作業車の回送など考慮/現場作業で終了時間繰り上げ□
 特殊作業車を用いる専門工事業が、時間外労働の削減に向けて奔走している。作業車の回送時間などを考慮すると、従来の作業時間では時間外労働の上限規制を順守できないとの危機感は強い。コンクリート圧送業や建設揚重業(移動式クレーン建設業)などの団体は、規制適用前から作業終了時間の繰り上げを求める活動を展開。ゼネコン側の理解も広がり、価格面も含めて作業条件などの交渉が進む案件も見られる。多くの現場で繁忙期を迎える下期に向け、元請側との協議が一段と活発化しそうだ。
 現場でのコンクリート圧送作業や移動式クレーン車による揚重作業では作業車の回送時間の取り扱いが、技能者・オペレーターの時間外労働削減のポイントとなる。1日に往復で2、3時間の回送時間がかかるケースも見られ、「午前8時~午後5時を作業時間とする従来の形では、時間外労働を月45時間以内に抑えるのは厳しい」(建設揚重業団体関係者)とされる。
 業界団体側は2023年度に時間外労働規制の適用を見据え、4月以降の現場での作業時間の終了時間を午後3時までとするよう、行政や元請に対し要望活動を展開してきた。
 全国コンクリート圧送事業団体連合会(全圧連)は3月、ゼネコンなどに要望書を送付。上限規制を順守するため圧送時間の終了時間を繰り上げ、ゼネコンらに対し施工計画段階からの協力を求めた。
 規制適用後、現場では圧送に使うポンプ車1台当たりの作業時間を減らすため、車をどう手配するかが課題となっている。佐藤隆彦会長(ヤマコン社長)によると「これまで1台で施工していた規模の現場で区割りを細かくし2台投入できないかと、(元請側との)打ち合わせ段階で聞かれることが増えているようだ」と要望活動で一定の成果が現れている。しかし、台数が増えるとコスト増につながり、担い手不足が深刻化する中で人員や配車台数の拡充は困難であり、特に「小中規模の現場は調整が難しい」とこぼす。
 東京都内などの大規模現場では、労働時間を勘案しながら車両を融通できるよう2社共同で請け負うケースもある。こうした現場が「都内以外にも広がるのではないか」(佐藤会長)と見ている。
 4月から現在まで生コンの出荷量が落ちており、規制時間を超過する恐れはあまりないようだが、年度後半の繁忙期への対応は予断を許さない。全圧連の佐藤会長は「(終了時間が繰り上げられれば)1日当たりの施工ボリュームが減る。技能者の処遇改善を見据え、作業時間や単価などについて元請との交渉を本格化させなければならない」と強調。規制順守に向けた具体的な解決策は見えていないが、「1年程度かけて現場の実際の様子を見ながら、良いケースがあれば全国展開する。引き続き情報収集にも努める」と話す。
 移動式クレーン業界は東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県の建設重機協同組合が連携し作業時間を午前8時~午後3時とする要望活動を23年度から行ってきた。4月以降、時間外労働の上限を超過しそうなオペレーターの変更調整などに理解を示す元請企業も見られるという。東京建設重機協同組合の高村伸彦理事長(東邦重機開発社長)は「これまで話をしてきたゼネコンなどの担当者の多くは、ある程度の理解を示してくれた」と前向きに捉える。
 現場での作業終了時間の繰り上げについては、先行する首都圏だけでなく、関西も9月から同様の対応が検討され、名古屋や三重など中部圏でも動きが見られるという。一方、業界側の要望を押し通すことで、仕事を取れなくなることへの個社の不安も小さくない。高村理事長は「業界側からもっとアプローチし、ゼネコンなどの関係者と腹を割って話せる環境づくりが重要だ」と指摘する。
 残業時間の削減など働き方改革による担い手の確保定着も業界の重要課題の一つ。残業に制約がかかり、収入が減ることになれば、新規の入職減だけでなく、今いる労働者の流出が懸念される。神奈川建設重機協同組合の戸田和吾事務局長は「理解のあるゼネコンもあるが、様子見のところも少なくない。業界側の取り組み状況にも会員間で差が大きい」と現状を分析。業界全体で一体感の醸成に向けた組織力の強化を重要とし、「一致団結して適正に利潤を上げ、しっかり従業員に還元しなければならない」と語気を強める。
 上限規制適用から4カ月余り。企業や団体の連携を強め元請へさらにアピールし、効果が出ている取り組みを全国に広めるような活動が重要になってきている。