酸性河川を電気で中和、草津温泉で新技術の実証実験/田中恒夫前橋工大教授ら

2024年8月28日 技術・商品 [5面]

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 前橋工科大学の田中恒夫教授の研究グループは、電気化学的な手法を使って酸性河川を中和する新技術の実証実験を、関東地方整備局と共同で群馬県草津町の草津温泉で始めた。26日に現地を報道関係者らに公開した。現在の石灰投入に代わり、電気で酸性河川を中和し中和生成物の発生を抑制。電気中和に伴って発生する水素を発電などに活用することも可能となる。田中教授は「エコタウンとして最先端の技術を導入し、草津温泉の観光、文化のバリューを高めたい」と意気込みを語った。
 草津温泉周辺を流れる湯川、谷沢川、大沢川は火山の影響で強い酸性となっており、下流の農業や生態系への影響をなくすため大量の石灰を投入し中和している。ただ石灰中和では中和生成物(硫酸カルシウムや炭酸カルシウム)が発生してしまうため、中和施設の下流に専用の品木ダムを設け、中和生成物を堆積させ浚渫、埋め立てて処分している。
 電気化学的な手法により石灰投入を減らすことができれば、中和生成物の発生も抑制できる。石灰の輸送にかかるコストや二酸化炭素(CO2)排出量も削減できる。さらに電気的な中和の副産物として発生する水素を活用し発電すれば、中和で用いる電気の一部を賄うことも可能となる。
 新技術は関東整備局の「現場ニーズと技術シーズのマッチング」の取り組みの一環として2022年度に採択され、3年を期限に産官学が連携し技術開発を進めている。最終年度となる24年度、実際の河川で実証実験にこぎ着けた。
 研究グループが作成した実験装置は縦90センチ、直径15センチの円筒形で、内部に多孔質の活性炭素繊維の陽極と白金メッキチタンの陰極が入っている。筒内を通水させて両極に電気を流す。すると電気的な働きにより水中の水酸化物イオンが多孔質の陽極に取り込まれ、アルカリ化するという仕組み。
 実験装置を草津温泉近くの品木ダム水質管理所前を流れる湯川に設置。容量は毎秒23ミリリットルで、実際に湯川の水を取水して水素イオン濃度指数(pH)が上昇していることを確認した。
 田中教授は「今後は(装置の)スケールをより大きくしたい」と語り、社会実装を目指しさらに研究開発を進めていく考えを示した。