スコープ/関空開港30年、コンセッション導入し経営に民間の知恵生かす

2024年9月3日 論説・コラム [10面]

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 大阪府南部・泉州沖5キロの海上に建設された関西国際空港が4日に開港30年を迎える。世界初の「完全人工島の海上空港」として1994年に誕生した西日本の国際的な玄関口。2016年にはコンセッション(公共施設等運営権)方式へ移行し、関西エアポート(山谷佳之社長)が運営する。ウオークスルー方式の免税店や手荷物検査の処理能力を上げるスマートレーンを国内空港で初めて導入。山谷社長は「空港の経営に民間の知恵を生かせている」と胸を張る。
 関西での新空港建設構想は、大阪国際(伊丹)空港の騒音問題を契機に浮上した。播磨灘、神戸沖、泉州沖が候補地に挙がり、運輸省(現国土交通省)の航空審議会が泉州沖が最適と答申した。1984年には国や地方自治体、民間企業が出資して関西国際空港会社を設立。87年に約510ヘクタールの人工島を造成する1期工事が始まった。
 当初、廃港が検討された伊丹空港は騒音問題が沈静化したことなどで存続が決定。国際線は関空に移ったが、国内線の多くは伊丹空港に残った。06年には神戸市沖に国内線専用の神戸空港が開港した。
 関空の旅客数は1999年度に国内線・国際線合わせて年2000万人を超えたものの、その後はバブル経済崩壊後の景気停滞や米同時多発テロ、リーマンショックなどで伸び悩んだ。大きな転機は日本初の本格的な格安航空会社(LCC)専用ターミナルの運用だ。低迷していた旅客数は15年度に過去最高の2400万人まで増えた。
 関西エアポートは、オリックスと世界13カ国で70以上の空港を運営する仏ヴァンシ・エアポートを中核に関西系30社が出資し設立した。18年度の売上高は2204億円と民営化前に比べて2割増えた。コロナ下の3年間は赤字に陥ったが、23年度にV字回復を果たした。山谷社長は「空港経営は長期的に見ていかないといけない。需要をよく見極めることが非常に重要だ」とし、「右肩上がりの需要は継続する」とみている。
 ウオークスルーとスマートレーンは第2ターミナル国際線で導入している。3日に第1ターミナルでスマートレーンの一部運用を始め、客数に応じ自動的に誘導するシステムが国内で初めて稼働する。このほか車いすの乗客向け移動支援サービスを7月に開始した。
 山谷社長は「民間が経営する空港として、これからも知恵を出すことを大切にしたい。コンパクトなターミナルだが、快適で世界で一番効率のいいターミナルづくりに挑戦する」と意気込む。
 1期の空港島は水深18メートルの海上に建設する難度の高い土木工事となった。海底には厚さ数百メートルの洪積層と20メートル程度の沖積層が横たわるため、砂杭を打ち込むサンドドレーン工法で地盤を改良。打設本数は1期島が100万本、2期島(約545ヘクタール)が120万本。関空建設前の国内の施工実績(90万本)を1期島だけで超えた。
 空港島の護岸の総延長は24キロ。約9割に緩傾斜石積み護岸を採用した。着工前は地元漁協との補償交渉が難航したが、今では護岸周辺に藻場が広がり、多くの魚介類が生息。産卵場所にもなり、「自然と共生する環境にやさしい空港」を実現している。
 埋め立てた土砂の量も膨大だ。1期島と2期島を合わせると4億4000万立方メートルに上り、大阪府と兵庫県、和歌山県の採取地から土運船で運び、海中に直接投入した。2期工事では情報化施工を展開し、GPS(衛星利用測位システム)を使った土運船の位置決めやナローマルチビームによる施工状況の確認、大型振動ローラーの転圧管理など最先端の技術を結集。大水深・軟弱地盤の施工条件下で大量急速施工を可能にした。
 関空の建設事業は01年、米国土木学会(ASCE)の20世紀を代表する10大事業の「空港の設計・開発」部門に選ばれた。
 18年9月、台風21号が関西に上陸。高潮によって空港機能が全面停止する被害を受けたが、21年10月に護岸や滑走路のかさ上げ、消波ブロックの設置などハード対策が完了。災害発生時に早期復旧できるよう大型ポンプ車や排水ポンプ、非常用灯火を確保するなど災害に強い空港づくりにも取り組んだ。
 第1ターミナルでは700億円を投じ大規模な改修工事が進んでいる。国際線エリアを25%拡張し、国際線と国内線の商業エリアを広げるのが柱。全体を4期に分け、現在は3期工事が進行中だ。大阪・関西万博が開幕する25年4月までに大部分が完成する。その後は国際線商業エリアを拡張し、26年内の完成を予定する。改修後、関空全体で4000万人の受け入れが可能になる。
 山谷社長は「ターミナルのキャパシティーが増えることは大阪、関西地域にとって大きなチャンスだ」と強調。さらに「ネットワークを広げ、世界と戦える空港にしたい」と決意を述べている。