建築へ/東事協3支部長と千鳥会長が座談会、支部活動ベースに多様な社会貢献

2024年9月6日 論説・コラム [14面]

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 東京都内でまちづくりを通じて社会貢献に取り組んでいる東京都建築士事務所協会(東事協、千鳥義典会長)。ベースとなるのが、支部単位や近接支部が集まった六つのブロックによる地元密着型の事業だ。社会が変化し、さまざまな課題がある中で、どのような姿勢で展開しているのか。中央支部長の加藤義道氏(第1ブロック、カトウ建築事務所代表取締役)、渋谷支部長の山本誠氏(第3ブロック、アイ・エー・シー代表取締役)、杉並支部長の小野博文氏(第4ブロック、ヒロ空間企画代表取締役)の3氏と千鳥会長に展望してもらった。
 □行政との連携が鍵に
 ■加藤 中央支部は、東京・中央区と、東京中小建築業協会中央支部とNPO法人である「地域の防災と町づくりを研究する会」で耐震促進協議会を設立して活動している。年に一度の耐震フェア開催のほか、所有者の方に耐震化に関心を持ってもらうために旧耐震の建築物を回っている。年間約1000戸回っており、あと3年ですべて回りきる予定だ。発災後の応急危険度判定の模擬訓練も行っている。
 ■山本 渋谷支部では、建築に関する悩み事を相談してもらおうと「建築ナビゲーター」というリーフレットを作成して配布している。耐震や不動産的な相談も受けている。渋谷区に協力して、月に一度の耐震相談会を実施している。能登半島地震以降に関心が高まり、これまでの1人体制から2人に増強した。区民向けイベントにも積極的に参加している。行政で専門職が減少し対応が難しい部分があると聞いている。区の業務を受託できるような受け皿組織の設立を検討したいと思っている。
 ■小野 杉並支部の活動は技術向上と地域貢献、地球環境配慮の三つで、区に寄せられた相談への対応や無料相談会などを行っている。会員が協力し合えるようプラットフォームも立ち上げた。支部とは別に「杉並区建築設計事務所協会」を設立し、建築物の定期点検業務などを区から受託している。日本建築家協会(JIA)関東甲信越支部と東京建築士会杉並支部の3会でも連携して活動している。区からの依頼で道路事業について地域の意見を聞くファシリテーター役も務めた。

 □人材をどう引きつけるか
 ■加藤 協会に加入することで保険が有利になることもあり、会員は増えている。未加入の建築士事務所を訪問する取り組みも行っている。ただ、会合などに新しい会員がなかなか顔を出してもらえない。新規入会の人たち向けの集まりなども考えたい。7月に第1ブロックとして初めての見学会を国立競技場で開催した。1日で定員に達して非常に好評だった。
 ■山本 会員は増えていて、女性や若手も多くなった。(会員事務所の運営を支援してもらっている)協力会員も増えており、協力会員による委員会をやろうとキックオフ会を開いた。展示会や勉強会で交流を図りたい。今後に向けては、役員の交代がなかなか進まないことが悩みだ。
 ■小野 新しい会員が継続してもらえるようにすることが大事だ。もっと交流に力を入れたい。加入から5年程度の新しい会員にも副支部長になってもらっている。会議は30分から1時間以内と決めていて、オンラインも併用することで参加率が高い。
 ■加藤 今後を考えると働きやすい環境づくりが非常に重要だ。当社は子育てや介護の際の在宅勤務を認めている。社会との関わり合いは良い経験になるため、学校行事にも積極的に出るよう伝えている。
 ■小野 当社では、子育てを終えた女性などを積極的に起用している。建築士の資格を持っていても、子育てや介護で働いていない方がいる。職住近接で短い時間であれば働ける人もいるだろう。そうした人を発掘していくことも必要だと思う。
 ■山本 これまでは拘束時間が長かった。自分で時間を管理してフレキシブルに働けるようになるとよい。東事協が設計監理業務の一部を委託したい事務所と受託を希望する事務所をつなげるマッチングサービス「アーキ・パートナー」を始める。競合ばかりではなく、仕事の面でも会員同士がつながっていくことは重要だ。こうした仕組みを有効に生かしていくには、BIMやリモートが大事になるが、BIMの習熟がなかなか難しい。どう使いこなしていくかが課題だと感じている。

 □未来を見据え役割拡大へ
 ■山本 建築士事務所の事業承継がどうなっていくかが心配だ。知識や経験が次世代につながっていかなければ損失になってしまう。人となりが分かっている相手に引き継ぐことがベストだと思っている。
 ■加藤 跡継ぎで困っている話は聞く。建築士事務所が倒産して、図面もなくなってしまうようではクライアントや社会に迷惑をかける。労働人口が減るからこそ、スタッフが継続して働けることが大事だ。建物の面倒は誰かが見ていかなければいけない。それは業界としての責任だ。
 ■小野 支部内で、それぞれの事務所の運営まで話したことがあまりなかった。今回のような意見交換にヒントがあると思った。例えば、リモート業務をどうしているのかなど仕事に関する情報交換の場があってもよい。
 ■山本 これまでは建物との関わりが、設計・監理に集中していた。これからは建物の最初から最後までになるのだろう。そうした仕事の範囲にしていくための体制を考えていかなければいけない。
 ■加藤 建築士のありようが変わると思う。メンテナンスや運営まで積極的に出ていくことが社会から要求されている。建物の長寿命化が大きなテーマであり、既存ストック活用に率先して貢献すべきだ。若い人は物を大事にする傾向がある。そうした気持ちを伸ばしていきたい。
 ■小野 今は図面を書くことが設計だが、10年後も同じ職能のままであるとは思えない。建物も100年使うようになれば、用途が変わっていくはずだ。できるだけBIM化して建物の記録を残し、建物の管理をすることも建築士の仕事になるように感じている。未来にどうつながるか分からないが、耐震診断した古い空き家を借りてコミュニティーをつくった支部会員もいる。守備範囲を広くしていくことが必要だ。皆とそういう話をしていきたい。

 □重層的な組織を大事に
 ■千鳥 仕事が専門分化してきた歴史がある一方で、建築は統合しないとできあがらない。どう特化して、どう組み合わせて仕事をしていくかが重要だ。東事協として協力事務所のマッチングサービス、アーキ・パートナーを準備している。つながり合うことでより迅速に効率的に仕事ができるようにしたい。東事協には大手の組織事務所から中小まで幅広い会員がいる。大きな建物ばかりが目立ちがちだが、実際には中小規模の建物が圧倒的に多い。都市を人間に例えると、一つ一つの細胞が役割を果たして新陳代謝してこそ、まちとしてうまく全体が機能する。そうした重層的な役割をこれからも大事にしていきたい。