地域発/福岡市などで「耳で聴くハザードマップ」本格運用、災害リスク情報を音声で

2024年9月17日 行政・団体 [10面]

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 視覚障害者向けの防災・災害リスク対策総合情報アプリ「耳で聴くハザードマップ」の本格運用が福岡市などで始まった。災害発生時にスマートフォンの自動音声でリスク情報を知らせ、避難場所への誘導も行う。日本視覚障がい情報普及支援協会(JAVIS、能登谷和則理事長)が企画・監修し、Uni-Voice事業企画(東京都新宿区)が開発。適切な避難行動の支援や防災学習ツールとしての有効活用が期待される。
 「この場所は最悪の場合、洪水による浸水が発生して、その深さが50センチから3メートルになることが想定されています」「最も近い洪水に対応した緊急避難場所は福岡市立当仁小学校、距離は178メートル離れています」
 8月18日に福岡市視覚障害者福祉協会(明治博会長)が開いた「耳で聴くハザードマップ」利用説明会。操作デモで開発担当者がスマホの画面をタップし自動音声が流れると、一心に聞き入っていた参加者から感嘆の声が上がった。
 福岡市では無料のアプリをインストールしたスマホをかざすだけで印刷物の内容を読み上げる音声コード「Uni-Voice(ユニボイス)」を全国の自治体に先駆けて導入。年金やマイナンバーの通知書、水道の検針票などで活用してきた。耳で聴くハザードマップは、この読み上げアプリ「Uni-Voice Blind(ユニボイスブラインド)」を使う。
 気象庁や国土地理院のオープンデータと同期しており、GPS(衛星利用測位システム)の位置情報を基に現在地やその周辺の半径50メートル~3キロの気象情報、洪水・土砂災害・高潮・津波の4種類のリスク情報を伝える。盲ろう者用の点字ディスプレーにも情報提供が可能。自治体独自で設置した避難場所の位置データなどでカスタマイズできる。
 情報提供に加え、高い評価を得ているのが最寄りの避難場所へのナビゲーション機能だ。スマホを避難場所の方角へ向けると電子音で知らせ、誘導する。災害時は経路が危険な可能性があるため、平時に避難場所を把握しておく目的での利用が見込まれる。開発に携わった北原新之助氏は「もともとハザードマップは学習するためのもの。事前学習としてぜひ体験してほしい」と呼び掛ける。
 8月現在の導入自治体は5県2政令市と都内4区。無料で利用でき、4カ国語対応のため、外国人旅行者など利用の可能性は視覚障害者にとどまらない。そのためにも不測の事態に素早く情報を入手できるよう、「(オプションの)プッシュ機能を入れておくことが重要だ」(能登谷理事長)。
 説明会の10日前には日向灘沖で地震が発生し、南海トラフ地震臨時情報が初めて発表された。明治会長は増大する災害リスクへの危機感を募らせ、耳で聴くハザードマップに期待を寄せる。
 一方で視覚障害者のスマホ利用率の低さは大きな課題だ。明治会長は「自助と捉え、われわれもスマホの操作を学ぶ努力が必要。視覚障害の当事者目線で開発された、われわれに寄り添ったアプリを広めていきたい」と前向きに話す。