建築へ/建築学会全国大会、「建築と暮らす」テーマに記念シンポジウム

2024年9月27日 論説・コラム [14面]

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 日本建築学会(竹内徹会長)は、2024年度全国大会を8月27~30日に開いた。初日はオンラインで、同28日以降は東京都千代田区の明治大学駿河台キャンパスで実施。計6364件の研究・建築デザインの発表とともに、42テーマの研究集会や記念行事などが実施され、多彩な議論が交わされた。
 記念シンポジウムは、全国大会のメインテーマである「建築と暮らす」を主題に、同28日に開かれた。▽津川恵理(建築家)▽倉方俊輔(建築史家)▽多幾山法子(建築構造研究者)▽鞍田崇(哲学者)▽塩谷歩波(画家)-の5氏が登壇。テーマから着想した3枚の画像を投影しながら語ってもらった上で、意見を交わした。司会・進行は連勇太朗(建築家)、川島範久(建築家)の両氏が務めた。
 津川氏は、自身がデザインを手掛けた神戸・三宮の駅前にある「サンキタ広場」を紹介。ヨガを楽しむような多様な利用が生まれている状況を説明し、「他者を気にせずに都市空間で暮らしが始まっている。いわゆる法規的な建築ではなく、目に見えない概念的な部分に都市空間を挿入できる隙間があって、きっかけと人間が協働し始めた時に暮らしが始まるという考えだ」と語った。
 倉方氏が挙げたのは、建築家の吉阪隆正氏が設計した旧呉羽中学校(富山市)。内側に廊下が設けられ、ぐるっと回ると上下の階に行き来できるような構造となっていた。授業終了後にリレーをやっていた子どもたちがいて、「学校の廊下に当たるが、トラックと言って良いのでないか。機能に応じて空間が区分けされているのが20世紀の建築だったが、超越している気がする。学校は暮らしと対局だが、暮らしている気がする」と語った。建築家の安藤忠雄氏が設計したコンクリート打ち放しの住宅に住んでいて、子どもが大きな遊具のように遊んでいた様子も紹介。「使い手が新しい姿を発見していくことも建築と暮らすことではないか」と話した。
 構造の専門家という立場から能登半島地震の被災地の状況を語ったのは多幾山氏。道路側に向かって倒壊した家屋や増築したと思われる建物が壊れている状況などを説明。「全国に木造住宅が立っているエリアが多く、どこでもあり得る。どういう風に貢献できるのかを考えていきたい」と述べた。
 鞍田氏は、思想家の柳宗悦氏らが提唱した「民芸運動」に軸を置いて研究する哲学者だ。民芸運動は生活に根差した日常の道具が持つ美しさを新たな価値観として提示した。鞍田氏は「美しさとして価値付けが行われると鑑賞物に陥りかねない。もっと手前に手掛かりがある。家も建築も愛着や親しみを再確認させてくれるところが視点の持ち味と考えている」との見解を示した。
 塩谷氏は、建築を学んで設計事務所に入った後に、空間を俯瞰(ふかん)的に描く技法である「アイソメトリック」を用いて銭湯や建物を描く画家となった。建築家の吉村順三氏による脇田和アトリエ山荘の台所を描いた作品を投影し、「圧迫感がなく、人が見えない。一つ一つの手掛かりに体温がこもっている。素晴らしかった」と話した。塩谷氏は「能動性」をキーワードに挙げ、「建物も決まった使い方ではなく、自分でこうすると決める能動性が大事だと思っている」と述べた。
 川島氏は「建築と暮らしている状態は当たり前のことだが忘れてしまっている。目の前の建築や都市を見直していけば『使う・作る』だけではなく、『使わない・作らない』こともできる。環境負荷を減らす一番は作らないことだが、どれだけ効率的にやるかだけを考えてしまう。根幹的なものを思い出させるディスカッションになった」と総括。連氏は「語り方の問題がある。われわれがどういう語り方を紡いでいくのか。こういう場でトレーニングしていくのが大事だ」と締めくくった。
 記念シンポジウム以外にも、能登半島地震に関する災害調査報告会やSDGs(持続可能な開発目標)アクションプランの実践に向けた議論なども展開された。協力関係にある土木学会(佐々木葉会長)と互いの全国大会に会長のビデオメッセージを寄せ合う試みも、初めて実施した。
 竹内会長は「60年ぶりに都心でやった。再開発が行われている都市で、まちづくりや防災の在り方を議論できたことがすごく良かった」と振り返った。大規模災害が相次ぐ状況にも言及し、「災害時にも住み続けられる形に、建築のハードをレベルアップしていかないといけない。啓発活動を進めたい」と述べた。