チスイレンジャー参上!/東北整備局若手職員、流域治水の広報活動に奮闘

2024年10月4日 行政・団体 [10面]

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 ◇手作り紙芝居で子どもたちに語りかけ
 年初に発生した地震災害で復旧・復興の途上にあった能登半島が記録的な大雨に見舞われた。温暖化の影響などを背景に大規模水害の発生数が増加する列島各地。国や地方自治体は災害リスクの高まりを踏まえ、ハードとソフトの対策を組み合わせ、流域全体で水害を軽減させる取り組みに力を注ぐ。「流域治水」という考えが定着しつつある状況にあって、東北地方整備局の若手職員が工夫を凝らした広報活動を展開している。
 子どもたちに「流域治水」を知ってもらうにはどうしたらいいのか--。北上川下流河川事務所の流域治水課に昨年度在籍していた若手職員3人が1年をかけて作り上げたのは紙芝居だった。登場するのは緑やピンク、黄色など7色のキャラクターがメンバーの「流域戦隊チスイレンジャー」。治水アイテムを受け取った人が変身し、大雨被害から地域を守る物語だ。ストーリーもキャラクターも全てが手作り。難しい言葉は避けて小さな子どもにも理解できるよう工夫した。
 紙芝居作りに参加した高森優花さん(現鳴瀬川総合開発工事事務所調査設計課係長)によると、「行政レベルで流域治水への理解や取り組みは広がっているものの、地域の一般の人にはなじみがない。身近なものとして取り組んでもらえるきっかけになれば」という思いで2023年4月から制作に着手したという。常に心掛けたのは「分かりやすく、親しみやすく」。構成から企画、絵まで試行錯誤を繰り返し、1年がかりで紙芝居はできあがった。
 北上川下流河川事務所の流域治水課で働く及川日花梨さんを中心に、出前講座やイベントで紙芝居の読み聞かせがスタートしたのは今年4月。防災士らの口コミでチスイレンジャーのうわさが広がり、声掛けの件数が徐々に増えていった。今では同事務所の若手職員5人が交代でイベントなどに出向いているそうだ。
 「何レンジャーになってみたい?」。及川さんらが問いかけると、子どもたちは「フラワーピンク」「バスタブルー」と元気に答えてくれる。素直な反応が楽しみの一つになっているという。イベントなどに参加してくれた子どもに絵本になった紙芝居を配っている。流域治水を「自分事」として考えてもらえるよう、最終ページには塗り絵を添えた。「伝えることは言葉でも文章でも難しい」と及川さん。「オリジナルキャラクターで身近なものが治水アイテムになることを知ってもらえたらうれしい」と話す。1000部印刷した絵本は9月末でほぼ無くなり、5000部を大急ぎで印刷している。
 同じ事務所の工務課で働く斎籐英樹さんは「何もないところから作り上げることは大変だった。でも流域治水の認知度が全国に広がればいい」という。あえて特定の河川にせず「地域を流れる川」と表現したことで、東北管内だけではなく、今では九州地方整備局からも問い合わせがあるという。
 東北整備局が6月に開いた2024年度管内業務発表会で、「流域治水広報の取り組み~流域治水がわかる!!流域戦隊チスイレンジャー~」は最優秀賞に選ばれた。「物語の構成もキャラクターのデザインも伝えやすさの工夫も優れている」と高い評価を受けた。若手職員の感性を生かしさまざまな切り口で「流域治水」の取り組みを伝える。型にはまらない自由な発想が「防災」への関心を高めることに一役買っている。