働き方改革/人材関連アンケート・ゼネコン、民間発注者のさらなる理解不可欠

2024年10月15日 企業・経営 [4面]

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 ◇土木と建築で労働時間に差
 時間外労働の罰則付き上限規制が建設業に適用され、1日で半年を迎えた。総合建設業や道路建設業、設備工事業の各社は人材確保や働き方改革の取り組みを強力に推進。企業単体だけではく、業界団体を通じて発注者などへの理解促進にも努めている。人的リソースが限られる中、各社は社員一人一人の能力を最大限引き出す「人材マネジメント」を経営戦略の柱に据える。業種別のアンケートを通じて人材マネジメントの今後の展開や課題を探る。
 日刊建設工業新聞社は主要ゼネコン34社を対象に、人材マネジメントに関するアンケートを9月2日~10月7日に行った。「人材確保や人材マネジメントで重視する事項」や「適正工期の状況」「働き方改革を推進する上での不安や課題」を複数回答で聞いた。

 □エンゲージメント向上の動きも□

 人材確保やマネジメントで重視する事項では、「新卒採用の増加」(33社)、「施工体制の確保・人材の最適配置」(32社)、「中途採用の増加」(28社)と採用面に注力する回答に集中した。採用活動ではネットでの広報などを強化している。ただ、新卒や中途の採用が難しいため、「バックオフィスの最適化」(15社)や「業務アウトソーシングの増加」(14社)で足りないリソースを補う傾向も見て取れる。
 人材の確保や定着の観点から社員のエンゲージメント向上に向けた動きも加速している。休暇の取得促進やテレワークの推進など働きやすい環境を整備したり、初任給を含む賃金を引き上げたりするなど、離職防止対策を講じる。マネジメント力の向上には教育システムの再構築も欠かせない。次世代を担う人材の育成を後押しする一環で「DX、デジタル技術などに強い人材育成」(11社)を重要視する。
 4週8閉所などを踏まえた適正な工期で工事が実施できているかどうか調べたところ、土木と建築で状況が異なった。「土木工事の大部分で4週8閉所ができている」と答えたのは21社に対し、「建築工事の大部分で4週8閉所ができている」のは10社にとどまった=グラフ〈1〉参照。働き方改革を後押しする官公庁が発注する案件の多い土木工事で4週8閉所が進んでいることがうかがえる。
 技術者の人数など施工体制・能力を考慮した結果、土木工事でも「4週8閉所を確保できない工事は原則受注しない」との方針を掲げる会社が一定数あった。「建築工事で4週8閉所を確保できない工事は原則受注しない」と答えたのは17社だった。

 □法規制の抜本見直しが必要□

 日本建設業連合会(日建連、宮本洋一会長)は2023年7月、「適正工期確保宣言」を行った。会員企業は民間建築を中心とする発注者に見積もりを提出する際、4週8閉所や法定労働時間の週40時間稼働を原則とする「真に適切な工期」に基づき見積もりを行い、適切な工期・工程資料を添付している。
 あるゼネコンは「発注者には『適正工期確保宣言』を理解していただき、提出された工期および見積もりを尊重してほしい」と訴える。別のゼネコンは「4週8閉所相当の104日以上とする閉所カレンダーを作成し、土曜日や祝日の閉所指定日を定めて推進する。併せて閉所が難しい場合でも、所員が104日以上の休日を取得できる取り組みを進める」と休日確保に努める。
 上限規制適用を踏まえ働き方改革を推進する上での課題や不安を聞いたところ、「発注者(民間企業)の理解や対応」が33社と最多だった=グラフ〈2〉参照。一方、「発注者(国、都道府県・政令市)の理解や対応」(11社)「発注者(市町村)の理解や対応」(14社)が半数以下にとどまり、民間発注者と公共発注者で建設業の働き方改革に対する理解度に開きがあることがうかがえた。
 あるゼネコンは「官庁発注工事では土曜閉所が進んでいるが、民間工事ではなかなか難しい」と実態を明かす。さらに「土木と建築の労働時間の差に現れている。(技術者や技能者らの)交代制で週休2日を目指す方法もあるが、人員の問題から一斉に閉所するのが望ましいのは明確だ。民間の発注者に対し、国からの指導を今以上に推し進めてほしい」と求める。
 各社は法令を順守するためさまざまな施策や工夫を講じているが、特有の施工条件によって難しい対応を余儀なくされるケースも少なくない。出水期の作業制約が大きい河川工事や、運行時間外の深夜に作業が制限される都市部の鉄道工事などが代表例。これらの工事は4週8閉所が難しく、個人単位の4週8休に努めることになる。
 他産業の多くは土日の週休2日が当たり前なのに対し、あるゼネコンは「4週8閉所(完全週休2日制)を実現しない以上は、建設業の人材確保がままならない。プライベートの時間や、家族との時間を大切にする現在、このような労働環境(の業界)へ入職希望するはずもなく、法規制による大改造を強く期待する」と主張。労働規制の抜本見直しに踏み込む必要性を提起する。