東日本台風から5年・上/久慈川は100万平米の河道掘削、那珂川は高台移転事業計画

2024年10月15日 論説・コラム [5面]

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 記録的豪雨により各地に甚大な被害を与えた2019年10月の台風19号(東日本台風)から5年がたった。関東では多くの河川が氾濫するなど大きな爪痕を残した。関東地方整備局は激甚な被害を受けた河川について、地方自治体と連携しながら四つの緊急治水対策プロジェクトを推進。風水害の規模が増大する中、再度災害の防止に向けハード・ソフト一体となった対策を急ぐ。
 茨城県北部では久慈川、那珂川とも整備計画で目標とした流量を超過し、久慈川で7カ所、那珂川で8カ所の堤防が決壊した。合わせて約4800ヘクタールという広大な地域が水没した。被害が広範囲に及んだため、久慈川、那珂川それぞれで地域に応じた緊急治水対策プロジェクトが進んでいる。
 久慈川は川沿いの広い範囲で被害を受けた。このため約35キロの直轄管理区間に加え、上流約40キロの県管理区間も権限代行により国が緊急河川整備に取り組んでいる。無堤部や堤防が低い部分の築堤のほか、約100万立方メートルの大規模な河道掘削を実施。河道内に樹木が多く流下を妨げたことから、伐木除根も集中的に行っている。権限代行区間の工事には、直轄工事の経験が浅い地元建設会社も多く参加している。
 目標年度までの工事完了を目指して、ICTなど新技術を積極導入したり、樋管工事でプレキャスト(PCa)樋管を全数採用したりするなど生産性を高めた。不調不落対策として茨城県建設業協会の地元支部と密接に情報交換を実施。現在、不調不落は発生していないという。
 工事は次第に上流側へと移り現在、大型工事は県北端の大子町内が中心になっている。26年度内の完成に向けて「地元建設業との円滑な関係を保ちつつ、さらに工事を進めていく」(久慈川緊急治水対策河川事務所・椎木貴敏副所長)。
 那珂川は東日本台風を踏まえた緊急治水対策プロジェクトで唯一、高台移転事業が計画されている。河口近い支川の涸沼川沿いの大洗町堀割・五反田地区は一部に家屋があり、堤防が整備できない。そこで川沿いの6万7473平方メートルを「災害危険区域」に指定。大洗町と都市再生機構、常陸河川国道事務所が協力し「防災集団移転促進事業」を進めている。
 那珂川中流域では「大場遊水地」を整備する計画だ。常陸大宮市と城里町にまたがる左岸側に洪水調節容量約580万立方メートルの遊水地を建設。既に排水門などの工事が始まっている。堤防整備では、川沿いに市街地が近接する場所で用地取得の手間を減らすため、コンクリート製の擁壁を使った特殊堤を採用するなど、早期完成に向けた工夫も講じている。
 このほかワンコイン浸水センサーの導入や住民向けマイタイムラインの普及促進、広報活動などソフト施策にも注力。「多重防御」による被害抑制に取り組んでいる。