東日本台風から5年・中/入間川は多重防御で備える、多摩川は139万立米掘削・浚渫

2024年10月16日 論説・コラム [5面]

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 埼玉県内を流れる荒川水系入間川では本川と越辺川、都幾川で7カ所が決壊した。約2000ヘクタールという広大な地域が水に飲まれた。入間川流域緊急治水対策プロジェクトでは河道掘削や堤防建設に加え、越辺川と小畔川の合流点上流、越辺川と都幾川の合流部付近の2カ所に遊水地を整備。洪水に対する多重防御を築いている。
 周辺に市街地が多いため、ソフト施策や広報活動にも力を入れる。簡易監視カメラの設置やワンコイン越水センサーを導入。さらに地元自治体と連携したイベント開催や、地元デザイン専門学校と共にポスターの作成、タレントを起用したPR活動など独自の取り組みが進む。
 既に入間川本川は計画された整備メニューを完了。8月の台風10号では河道掘削により入間川の水位上昇を1・1メートル抑制するなど効果を発揮し始めている。整備を担う荒川上流河川事務所の田中芳貴副所長は「河道掘削、遊水・貯留、土地利用の見直しの三位一体で対策を進めたい」と意気込む。
 東京都と神奈川県の境界を流れる多摩川も大きな被害を出した。浸水被害が深刻だった二子玉川地区(東京都世田谷区)では、約540メートルの無堤部解消に向け堤防整備が進んでいる。家屋が川に近い場所は築堤ではなく、逆T字型擁壁による特殊堤を採用。2024年度の整備完了を目指す。対岸の公園へのアクセスを確保しながら施工するなど、周辺環境や住民に最大限配慮しながら事業を進めている。
 中流部では、農業用水を取水する大丸用水堰が流下の妨げになっていると指摘された。そこで堰堤を撤去し、代替となる帯工や取水施設、堤外水路などを整備している。撤去によって洪水時、付近の水位を約1・5メートル下げる効果を見込む。既に右岸側の撤去工事は完了。24年度以降は残る左岸側の撤去を進める予定だ。
 多摩川は河道掘削や河川浚渫が多く、総土量約139万立方メートルにも及ぶ。特に中流部と下流部に集中。掘削した土砂は築堤などに活用するが、多摩川の川砂は粒径が細かい上、木の根など植生が多く混じるため土砂改良が必須となる。一般的には河川敷に土砂改良プラントを設置するが、出水期は解体し搬出しなくてはいけない。このため新たに開発した「自走式回転式破砕混合機」を採用し、解体搬出の手間をなくした。
 河口に近い下流部の河道浚渫は大型水陸両用ブルドーザー(43・5トン級、最大作業水深7メートル)を使い、効率的に広範囲を浚渫する予定だ。また環境保護団体とも連携し、河口部の葦原(あしはら)保護など環境に配慮した事業計画で工事を進めている。