防災・減災/オオバ、西日本豪雨復興のシンボル岡山県倉敷市に完成

2024年10月16日 論説・コラム [12面]

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 ◇まちづくりで被災地支援
 オオバが、災害からの復興プロジェクトへの貢献に力を入れている。2018年7月に発生した西日本豪雨では、岡山県倉敷市が整備を進めてきた「まびふれあい公園」の設計をオオバ・隈研吾建築都市設計事務所JVとして手掛けた。同公園は7月にオープンし、復興のシンボルとして市民が利用している。非常時にも広い視野と高い視点を持って対応できる技術者を育成し、まちづくりを得意とするコンサルタントの立場から被災地を支援していく。
 オオバは、東日本大震災から復興事業への取り組みを本格化し、熊本地震などでも復興業務を手掛けた。西日本豪雨では、倉敷市真備地区で約1200ヘクタールが水没するなど甚大な被害が生じた。市は復興のシンボルとなる公園の整備へ向け、21年に実施設計等業務の公募型プロポーザルを実施。復興を後押ししたいとの思いから、建築家の隈研吾氏とともにプロポーザルに参加して選定された。河川敷部分を含めた全体の面積は約4・5ヘクタール。このうち約2・8ヘクタールの公園に携わった。
 市は、防災教育や魅力発信などを含めて平常時と災害時の両面で活用できる公園を目指す方針を掲げた。こうした意向を踏まえ、中央に配置したのがシンボルとなる施設「竹のゲート」。隈氏が設計し、地域を取り囲む山並みに調和した大屋根と、真備らしさとして竹を生かした意匠が特徴だ。
 防災備蓄倉庫とともに、災害の教訓を伝える「まなびのへや」も備える。市民の憩いの場として芝生のスペースやアスレチックがある遊びの広場などを設けた。災害時にも利用できるようマンホールトイレや、太陽光発電によるワイファイ(Wi-Fi)環境も整えた。
 オオバは、まちづくりやランドスケープなど多彩な得意領域を持つメンバーでチームを編成。同社の野中敏幸執行役員大阪支店長は「被災者の思いに寄り添いシンプルでメモリアルな物を作ることと、防災機能の両立に注力した」と話す。品質と安全、コストのバランスに配慮しながら細部を詰めていった。
 市の主導の下、地元関係者らとワークショップ等を開催し、丁寧に合意形成を進めていった。辻本茂社長は「伊東香織市長をはじめとする行政が明確にコンセプトを持っていたことが素晴らしかった」と振り返る。
 施工は、地元業者のカザケン(倉敷市、渡邉普介社長)ら32社が担当。無事完成に至り、5月26日には天皇皇后両陛下が訪問された。7月3日に開園式を実施し、同13日に地元の祭りである「真備・船穂総おどり」が盛大に開かれ、市民ら多数が集った。
 オオバの野中支店長は「行政や地域の方と共にどう一体感を作るのかが重要だった。かなり貴重なモデルケースになった。ノウハウを水平展開する」との姿勢を示す。赤川俊哉執行役員技術本部副本部長兼震災復興統括室長は、大規模災害への備えの重要性に言及し「初めての担当者と経験者が組むことで技術を継承する」と話す。大場俊憲取締役兼専務執行役員は「事前防災も必要だ。知識や経験をしっかりとフィードバックしていきたい」と先を見通す。

 □辻本茂社長に聞く/視野が広く視点の高い技術者で地道に貢献□
 どのような思いで事業に取り組んでいるのか。オオバの辻本社長に聞いた。
 --まびふれあい公園が開園を迎えた。
 「地域の防災拠点になる大変意義深いプロジェクトを手掛けられたことを光栄に思っている。隈研吾建築都市設計事務所との協業が非常に良く機能した。東日本大震災などでの復興まちづくりの経験を生かして良い提案をさせていただいた。まちづくりソリューションのナンバーワン企業として培ってきたノウハウが役立った」
 --復興に貢献していく上で重要な点は。
 「まちづくりの世界では、広い視野を持って調整する能力が求められる。専門分野を深掘りすると同時に、周辺分野も勉強することで視点の高い技術者になれる。複数の分野をこなせるポリバレントなプレーヤー(多能工化)が求められるが、経験していないことに対しても応用問題として解決できる技術者が育っている」
 --今後に向けて。
 「東日本大震災など復興業務を経験した技術者が87人いる。難しい業務が多いが、苦労が糧になり、平時の業務にも生かせている。能登半島地震の被災地でもお手伝いさせていただくこととなった。派手さは全くないが、黒子として貢献し『よくやってくれた』と言ってもらえることを、われわれは誇りに思う。有事にも迅速にお役に立てるように技術を継承し研鑽(けんさん)を重ねていきたい」。