東日本台風から5年・下/関東整備局・矢崎剛吉河川部長に聞く、課題と今後の河川整備

2024年10月17日 論説・コラム [5面]

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 ◇ストック有効活用を柱に議論加速
 利根川本川があと一歩であふれるところだったという事実を、われわれは絶対に忘れてはいけない--。関東地方整備局の矢崎剛吉河川部長はこう語る。2019年10月に起きた台風19号(東日本台風)の記録的な豪雨により、国直轄管理を含め複数の河川が氾濫。さらに関東最大の河川・利根川が氾濫の一歩手前という危機的状況に直面した。
 「あれだけの大河川(利根川)が川幅いっぱいになってあともう少しであふれるというところまできたことは重く受け止めなくてはならない」と矢崎部長は振り返る。上流のダム群や遊水地が効果を発揮し、7割提(堤内地側の堤防のり面勾配が1対7と幅の広い堤防)もあったので決壊を免れた。
 当時、試験湛水中だった八ツ場ダム(群馬県長野原町)を含め上流ダム群が、1億4500万立方メートルという膨大な水をため込んだ。これにより水位が約1メートル低下(群馬県伊勢崎市八斗島付近)したという。「先輩方が積み上げてきた河川の計画や整備が正しかったということが証明された。それをわれわれがきちんと引き継いで次に生かしていくことが大事」(矢崎部長)。
 東日本台風は気候変動に伴い降雨量や河川流量が増加している現実を、多くの国民に認識させた。国土交通省は全国の直轄河川で降雨量の増加を前提とした河川整備基本方針の見直しに着手。関東でも利根川水系をはじめ、荒川などで見直し作業が始まっている。
 矢崎部長は「降雨量が1・2倍に増えるのはすごく大きなこと。河川管理者の重責として国民の命と財産を守る上で、非常に大きな課題を与えられている」と気を引き締める。
 スピード感のある取り組みが求められる中、矢崎部長は「既存ストックの有効活用」をポイントに挙げる。東日本台風を機に始まったダムの事前放流の対象拡大や、治水・利水容量の柔軟化、遊水地の機能強化といった対策について「今後、議論を加速していかなくてはならない」と意気込む。
 新設の洪水調節施設も「今後、治水機能増強の検討をする中で、しっかりと既存ダムの有効活用も含めて整理していきたい」という。
 東日本台風からの復旧復興に向け、関東整備局管内の4河川で緊急治水プロジェクトが進んでいる。着手から5年がたち事業完了が次第に視野に入り始める中、矢崎部長は「限られた工期で事業を仕上げ、再度災害を防止していく姿を地域に示すことが非常に重要だ」と力を込める。
 地域や水系によって流域治水の内容や特徴もさまざま。利根川のような大河川で流量1・2倍に対応するには大きな事業が必要だが、「内水で困っている所は田んぼダムのような取り組みが有効だし、地域に応じてどんな施策を組み合わせるか。しっかり知恵を出し合っていくことが大切だろう」。
 各地で記録的な大雨が観測され、甚大な水害被害が多発している。生活者の安全安心を確保するため、治水対策の重要性、必要性がさらに高まっていく。