防災・減災/御嶽山噴火から10年-続く活火山との共生、登山者や地域の営み守る 

2024年10月24日 論説・コラム [12面]

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 長野県と岐阜県にまたがる御嶽山(3067メートル)の山頂に至る登山道の通行期間が16日正午で終了した。戦後最悪の火山災害となった2014年9月27日の噴火によって、地獄谷火口付近はおおむね500メートル以内の立ち入り規制が続くものの、今年は7月1日午前8時から、王滝頂上や剣ケ峰に至る登山道の規制が緩和されていた。噴火から10年。避難用シェルターの設置といったハード対策が施された山頂や登山道は、今シーズンも大勢の登山者らでにぎわった。
 14年の噴火は7年ぶり。規模が大きく、午前11時52分という登山者らが多く滞在する時間だったため、63人もの死者・行方不明者が発生した。その被害は、111もの活火山がある日本の噴火対策と共生の在り方を改めて問い掛けた。
 両県や地元自治体、関係機関で構成する御嶽山火山防災協議会は「安心して登頂できる山を目指して」などをコンセプトに、ハード・ソフト両面からの安全対策を実行してきた。噴火当時よりも安全性を高め、対策が整った範囲ごとの規制緩和に貢献。火山活動に関する正確な情報の発信にも力を入れた。
 頂上付近は主なハード対策が完了した。長野県側の剣ケ峰・黒沢口登山道(二ノ池~剣ケ峰)、王滝頂上・王滝口登山道(9合目~王滝頂上~剣ケ峰)は、▽避難シェルター整備▽山荘のアラミド補強▽避難路(登山道)補修▽情報伝達設備整備(屋外スピーカー、防災無線、携帯電話基地局)-などが進められた。長野県王滝村は鋼製ドーム型2基、同木曽町は鋼製2基、コンクリート製ボックスカルバート3基、簡易1基の計6基のシェルターを設置。ヘリコプターで搬送できるよう部材を分割し、現地で組み立てた。
 噴石の威力は強く、噴火当時、山頂の御嶽神社頂上奥社祈祷(きとう)所は火口側の壁が突き破られた。このためシェルターには緩衝材を設置し、壁部分を保護材で覆った。王滝村の鋼製ドーム型は、内閣府が発行した「活火山における待避壕等の充実に向けた手引き」に対応した全国初の事例となった。
 ソフト対策では拡充したパトロール隊・パトロール員が火山活動や規制の情報提供、登山計画書・安全装備の確認、監視、滞留防止の指導などに取り組んでいる。登山指導所も設置した。避難の誘導マニュアルの整備や避難促進施設の指定、訓練も続く。
 木曽町の古畑章夫総務課危機管理室長は「噴火前に戻りつつある」と今夏の山の様子を話す。指定管理者制度を導入した山荘は宿泊者が増えている。9月の3連休は、おんたけロープウエーが臨時休業する日があったが、バスで到着した利用者を登山口まで搬送するなど、登山シーズンのにぎわいに対応した。
 ただコロナ禍の影響もあって観光振興は地域全体の課題。長い歴史のある信仰の山ながら、地元関係者は登山道を行き交う装束姿の信者は「白一色の列を見る機会が随分減った」と見ている。
 「登山者の安全確保は絶対」(王滝村の橋本悟志総務課長)。長野県側の入り口となる王滝村や木曽町の危機管理担当者は、そうした思いで一致している。規制強化が必要になる事態の対処に当たって、橋本課長は「怒られても仕方ない。通せんぼする」と決意を話し、災害対策基本法に基づく積極的な規制を講じる姿勢を崩さない。
 県外からの登山者が多いのが特徴。協議会の事務局機能を岐阜県と共に担っている長野県木曽地域振興局の澤邉翔太総務管理・環境課県民生活係主任は、PR動画なども活用し、ヘルメット装着などを含めた安全情報の発信に力を入れていくという。
 なりわいを山と一つにしている人たちは少なくない。今シーズンは初登山の人も犠牲者を思って登り降りする人も多かった。9合目に位置する石室山荘の向井修一さんは「いろいろな人が登ってきてくれる」と話す。ヘルメットの装着率が上がったそう。「噴火の記憶を伝えていきたい」と向井氏。地域一帯では、御嶽山火山マイスターの認定を受けた者が防災教育などに取り組んでいる。活火山との共生と地域の営みはこれからも続いていく。

 □ビジターセンターで教訓や防災情報発信□
 噴火災害の教訓や火山防災の情報を地域の魅力とともに紹介する施設がある。王滝村の長野県立御嶽山ビジターセンター「やまテラス王滝」は、標高2000メートルを超える王滝口登山道の7合目にある。木曽町の「道の駅三岳」に隣接するのは同町御嶽山ビジターセンター「さとテラス三岳」。両施設とも噴火災害の記録とともに地域の歴史・文化・自然の魅力を発信している。さとテラス三岳には御嶽山火山マイスターの活動スペースがある。火山学習などに役立っており、研究拠点としても利用されている。

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