警視庁創立150年-本部庁舎の変遷・下/既存建物との並びを重視

2024年11月6日 論説・コラム [4面]

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 ◇新耐震基準の考えを先取り
 警視庁は旧桜田門庁舎(1931年竣工)の建て替えに向け、70年代に入ると改築計画に着手する。当時立っていた1号館を、地下3階地上8階建てに改築する計画を立案。だが建設省が難色を示し、1号館と本館を合わせて建て替えるよう提案を受ける。
 その後、さまざまな議論を経て庁舎の改築が決定。外部有識者や建設省関係者、警察庁関係者などで構成する建設委員会を72年7月に設置。新庁舎に関する具体的な検討が始まった。
 建設地は旧桜田門庁舎と同じ場所。皇居の桜田門に向かい合う三角形の土地で、ここを起点に庁舎の東側は官庁街が続く国道1号、西側は国会議事堂に通じる内堀通りなどが通っている。
 当初は長方形型の建物も検討したが、国道1号や内堀通りといった二つの街路の歴史的背景や特徴を生かした建物にするため、桜田門の交差点を頂点としたアルファベットの「A」の形を採用。二つの街路沿いに立つ既存棟との並びを重視した建物を目指した。
 新庁舎の基本・実施設計は岡田新一設計事務所が担当した。新庁舎の外観について、柳瀬寛夫社長は「横方向を意識するようなデザインを採用している。周辺の建物を見た時にバルコニーがあるなど、水平なデザインが多いので、それに合わせた形だ」と解説する。
 外壁には「四丁掛磁器質タイル」を採用。突起があるため、晴れの日は陰影によってまぶしさを抑える。一方、曇りの日には影が消え、明るく見える効果がある。警察官が整列している様子もイメージしたという。色は国会議事堂に合わせるとともに、将来改築が予想される各省庁にも合うよう、考え抜かれた。
 Aの形という異形平面の建物のため、耐震設計には苦労した。設計当時は新耐震基準が施行される前の時代。「地震が発生した時のねじれを最小に抑える作業が大変なウエートを占めた」(柳瀬社長)。建物の強さの中心である「剛心」を、建物の「重心」にできるだけ近づけることで揺れを抑制。新耐震基準の考え方を先取りした設計だった。
 施工時は鉄骨接合に伴うゆがみを予想して組み立てていくなど、設計者と施工者の徹底した連携により、高い精度の耐震性を確保。今でも大規模地震に耐えられる建物になっているという。
 新庁舎の高さは、建設審議会(建設相の諮問機関)から「皇居のお立ち台を見下ろすことのないように」とくぎを刺された。既存の高層ビルの高さも参考にし、軒高は74・3メートルとした。現庁舎は80年に竣工。S・SRC・RC造地下4階地上18階建て塔屋2階延べ9万9232平方メートルの規模。設計期間は74~76年、工期は77~80年だった。
 庁舎は築44年が経過しているが、堅固なつくりで首都東京にふさわしい格調を備える。霞が関の官庁街の始点となる場所できょうも都民の安全を守っている。
 (編集部・若松宏史)