◇街を止めずに工事を進める
東京・渋谷駅周辺の大改造の引き金となった鉄道部分は、全体を左右する重要な鍵だ。パシフィックコンサルタンツ(パシコン)の丹羽隆泰首都圏本社営業部鉄道営業担当部長は「駅の機能を絶対に止められない中で、安全を確保しつつ最適な配置を実現するという技術的な挑戦があった」と難しさを説明する。
渋谷駅は4社9線が乗り入れる巨大ターミナルだ。段階的に整備が進んだ経緯もあり、複雑な構造にならざるを得なかった。より分かりやすく利便性の高い駅にするというゴールは、鉄道会社をはじめとする関係者間で一致していた。
「渋谷の玄関にふさわしい姿に変えるために、大胆に駅の移設を提案し、実現した」(丹羽氏)。JR埼京線をJR山手線と並列化して乗り換え利便性を高めるとともに、東京メトロ銀座線の駅を東側に動かしホームも広げることになった。
駅の入り口が多数存在し、平面・重層的に複雑に入り組んでいる上に、渋谷を目的にする人や乗り換える人など利用形態も多様だ。「乗り換え距離や時間の短縮などを算出はできるが、数字だけでは表現できない要素もある」(丹羽氏)。乗り換え利便性だけを追求するのではなく、他路線との間にある滞留空間などにも配慮が求められた。
さらに大きな制約となったのが施工への対応だ。移設や改造を行う駅部分が近過ぎると、仮設や切り回しの十分な場所が確保できない。鉄道は毎日運行し、深夜にも保守作業が行われるため、工事に充てられる時間も限られる。
ゴールは一緒とはいえ、鉄道会社間で要求が異なる部分も当然生じる。「何を取って、何を取らないべきかをそれぞれの関係者に提案しながら合意形成を図っていった。共通の目標を忘れずに対話を尽くすしかない」と丹羽氏は言う。
鉄道会社や行政ら関係者が駅の位置や構造、機能の最適解を探っていけるよう、整備のプロセスを分かりやすく表現して可視化することにも腐心した。合意形成の部分を含めて綿密に計画を立てていく必要があり、社内でも議論を尽くしたという。
丹羽氏は「渋谷は、地形条件を含めて世界にないくらいの特殊な駅。公共交通志向型開発(TOD)が成功した最たる例ではないか」との見解を示す。TODは国内外でこれからも進められる。丹羽氏は「駅は動かせないと決めつけず、その地域の特性を生かして魅力を高める方法を模索することが重要だ。大変な作業だが、やっていて楽しい」と笑顔を見せる。