◇“毎日が完成形”の姿勢で
東京・渋谷駅周辺で進む大改造の全体調整への支援は、パシフィックコンサルタンツ(パシコン)に課せられた重い任務だ。小脇立二社会イノベーション事業本部総合プロジェクト部拠点まちづくり室渋谷エグゼクティブプロジェクトマネージャーは「さまざまな情報を統合することに苦心している。ある建物が完成する時に、隣はどのような状態にあるのか。人の流れを止めないためにどうすべきかを常に考えている」と説明する。
渋谷駅の近接エリアでは、▽東急文化会館跡地を核とする「渋谷ヒカリエ」▽東急東横線渋谷駅跡地などの「渋谷ストリーム」▽旧東急東横店跡地やJR渋谷駅ビルなどの「渋谷スクランブルスクエア」▽旧東急プラザ跡地を中心とする「渋谷フクラス」▽市街地再開発事業である「Shibuya Sakura Stage(渋谷サクラステージ)」-の5街区で大規模開発が進められた。
紙野輝恵社会イノベーション事業本部建築部建築プロジェクトマネジメント室室長は「それぞれ開発の進捗が異なり、先に工事しておかなければ手を付けられなくなる箇所もある。最終形だけではなく、途中段階も想像しながら、費用負担を含めて調整していった」と話す。空間と時間軸の両にらみでスムーズに進む案を編みだし、合意形成を図る--。難解なパズルを解くような検討の連続だった。
小脇氏は有識者の言葉が強く心に残っている。「街に来る人にとっては訪れたその日の姿が完成形で、問題なく使えなければいけない。街づくりに暫定形はない」。長期間の工事のため、本設同様に仮設にも配慮して歩行者動線などを切り替える日々はまだ続く。
緻密に計画を積み上げているが、想定通りに進まない部分もある。齋藤紗代社会イノベーション事業本部交通政策部都市モビリティ室課長補佐は「大きな思想は変わらないが、どこを引き継ぎ、どこを変えるかが難しい」と話す。約20年前の想定では大規模開発は駅周辺5街区だけだったが、20件規模に増えた。そうなると交通の量も流れも当然変わる。新たな開発が加わる度に、歩行者ネットワークなどを再考している。
工事費高騰や、建設業界の担い手不足による工期への影響も大きい。「長期プロジェクトだからこそ、変わらざるを得ない部分を含めて調整するマネジメントの重要性が増す」(齋藤氏)。こうした努力や費やすノウハウは外からは見えづらい。だが、事業が円滑に進む上で欠かすことのできない根幹の部分でもある。