回転窓/風船爆弾と女学生

2024年11月22日 論説・コラム [1面]

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 第2次世界大戦中、和紙を用いた巨大な風船爆弾が製造されていた。米国本土への攻撃のために80年前の1944年11月から9300発が発射されたとされる。担い手は女学生たちで、東京宝塚劇場も工場となった▼風船爆弾の開発は、秘密戦兵器などを担った旧陸軍の登戸研究所を中心に進められた。現在は跡地に明治大学が資料館を設け、当時の状況を伝えている▼作家・小林エリカ氏による小説『女の子たち風船爆弾をつくる』(文藝春秋)が今月、毎日出版文化賞を受賞した。日本が戦争へと向かい、敗戦を経て価値観が変容していった様を、女学生の視点から丹念に描いている▼小説に「わたしは決して無力なんかではないのだと信じたかった」という言葉がある。女学生らは風船爆弾の全体像を知らされないまま辛い作業に従事していたが、それは誇りにもなっていた。同資料館のイベントで小林氏は、「その中にいてあらがうことができるのかと、何度も書きながら思った」と話していた▼残念なことに海外の戦禍を伝える報道が日々続いている。戦う相手は、猛威を振るう自然災害だけで十分--。そう思えてならない。