◇生き字引として街に連れ添う
工事が複雑に絡み合う東京・渋谷駅周辺の大改造では、全体調整の場が重要な役割を果たした。パシフィックコンサルタンツ(パシコン)の小脇立二社会イノベーション事業本部総合プロジェクト部拠点まちづくり室渋谷エグゼクティブプロジェクトマネージャーは「最後まで考慮した全体工程を作らないと破綻する」との危機意識があったと振り返る。約2年かけて施工ステップ図などを作成し、随時更新している。
総合調整の必要性を突き詰められた一つが道路使用許可だ。開発事業者間で調整する会議体を設けて、バランスを考慮した計画を立ててから警視庁と協議した。個別協議ではなく、エリア単位で調整するのは警視庁でも初めてだったという。
有識者として参画する岸井隆幸氏(計量計画研究所代表理事、日本大学名誉教授)は「それぞれに言い分がある。ルールとバランスを意識して落とし所へ導くのが、真ん中にいる建設コンサルタントの大事な役割」と指摘する。同社は「シブヤ・パートナー」と銘打ち、関係者が円滑に動く歯車の役割を果たそうと取り組んできた。大規模な公共交通志向型開発(TOD)では、分野の垣根を越えた連携が不可欠。難易度は高いが、やりがいのある舞台だ。
2027年度にはJR渋谷駅改良工事や渋谷スクランブルスクエアの第II期が完成する予定。概成が近づきつつあるが社会ニーズは刻々と変わり続ける。久保寿社会イノベーション事業本部総合プロジェクト部長は「時代の変化が非常に早い。渋谷は、できることから戦略的にアップデートして街の課題を解決するモデルになっている」と話す。
小脇氏が渋谷に関わり始めたのは1997年。渋谷大改造の議論の場では最古参に近い存在となった。生き字引のように知っているからこそ全体最適をアドバイスできると、久保氏は感じる。「プロジェクトに専従する人の重要性をもっと認知すべきだ」(久保氏)。
岸井氏は「街を使いこなす段階でも建設コンサルタントがもっと役割を発揮すべきだ」と指摘。そうすれば基盤整備の検討に、より磨きがかかると期待する。「物ができることがゴールではない。そこに人がいてこそ、物に価値が宿る」と小脇氏。例えば広場を考える時にも、どんな人が利用し、朝と夜とでどう変わるのか、などを考え抜くことが重要と若手らに説いている。
同社は渋谷の事例を共有し、他地域に生かしている。今回の支援を経て、社会からより頼りにされる存在へ成長するために、進化の最中を駆け抜けていく。=おわり
(編集部・牧野洋久)