熱々の種もの(具)を口でフーフーと冷ましながら食べる「おでん」が恋しい季節になってきた。好みの具は人それぞれ。これからの寒い日などにピッタリの一品だ▼柳家小ゑん師匠の新作落語「ぐつぐつ」を聞くと、どうにもこのおでんが食べたくなる。登場するのは主人公のイカ巻をはじめ肌がヌルヌルしたこんにゃく、色が白くて若く人気のはんぺん、何かと言えば下に潜ってしまう昆布、フランスで生まれたロールキャベツなど個性ある具材たち▼それらが屋台の煮立った鍋の中で交わす会話が実に面白い。屋台のおやじが乱暴にかき混ぜたためにお玉の先で切られてしまうのは大根。傷におでんのつゆが染みて痛がる場面は滑稽で思わず笑ってしまう▼おでんや鍋料理によく使われる大根、キャベツなどの高値が続いているという。夏の猛暑など天候不順の影響とされる。本格的な冬の到来を控えて飲食店や買い物客には心配の種であり、一日も早い価格の安定が待たれる▼さて、落語「ぐつぐつ」で仲間が次々と買われていくのに一つだけ売れ残ってしまうあの具はどうなるのか…。何度聞いても見事なオチを楽しめる。