工事費上昇、まちづくりへの影響じわり/再開発スケジュール後ろ倒し・病院建設中止に

2024年12月12日 論説・コラム [1面]

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 長引く物価高騰がまちづくりに深刻な影響を与えている。東京都中野区の中野サンプラザ跡地で計画する再開発事業では想定を超える工事費の上昇を受け、施行予定者が施行認可を申請した2カ月後に取り下げるという事態に陥った。まちの重要な機能となる公的施設の整備にも物価高騰が影を落とす。さいたま市内で進んでいた病院整備計画が、工事費上昇などを理由に中止となった。地方自治体などの発注工事で不調不落が増える傾向にある。
 中野サンプラザ跡地で進む再開発事業は施行予定者が7月に施行認可申請を行った後、2カ月の間に建設費が900億円以上増えることが判明。2024年度の事業開始が困難になり、当初計画していた29年度竣工も後ろ倒しされる。
 地権者でもある中野区の酒井直人区長は10月の会見で「想定できる物価高には対応してきたつもりだが、想定をはるかに上回る見積もりが出てきて困惑している」と話した。区は施行予定者に対し24年度内に新たな事業スケジュールの報告を要求。区に新たな負担が生じることのないよう強い姿勢で向き合う構え。
 施行予定者は5日、区に対し施設計画を変更すると表明。住宅部の面積割合を増やすなど実現に向けた新たな方向性を示した。
 中野サンプラザ跡地の再開発事業で起こった事態は決して対岸の火事ではない。再開発を担うデベロッパーは施工を手掛ける建設会社と緊密に連携。今後の物価高を想定し、工事費を慎重に見積もっている。中野サンプラザ跡地のように短期間で急騰するケースは想定が難しいが、あるデベロッパー幹部は「今後ないとは言い切れない」という。
 都市の再開発事業は地権者も多く利害が複雑に絡む。施行者は簡単に撤退できない。別のデベロッパー幹部は「権利者だけでなく多くの人たちが関わっている事業を軽々にやめることはできないし、したくない」とし、厳しい環境下でも事業を前に進める意思を示す。
 工事費上昇分をオフィス賃料などに転嫁する必要性を指摘するデロッパーも少なくない。ある社の担当者は「顧客に価格や賃料増を納得してもらえるような商品の高付加価値化が今後さらに重要になる」とみる。
 物価高騰の影響は民間事業だけでなく、公的施設を計画・発注する自治体なども厳しい環境にさらされている。埼玉県と共に新病院開設を検討してきた順天堂大学が11月29日、整備計画の中止を発表した。7月時点で総事業費が当初計画(15年1月、834億円)の2・6倍に当たる2186億円に達し、工事費の上昇など環境の変化を理由に挙げた。地下鉄7号線(埼玉高速鉄道)の延伸構想も、交流人口の増加など新病院の立地に期待するところが大きかっただけに悪影響を与えることが懸念される。
 自治体では予定価格が一定規模以上の発注案件で不調不落が増えている。東京都財務局の発注工事で不調件数は22年度49件、23年度107件と倍増。24年度上期は41件となり、前年度と同水準で推移している。
 ある自治体の担当部局が入札参加者にヒアリングしたところ、物価高騰や技術者不足を理由に挙げるケースが多かったという。公共発注機関ではこれまでも不調不落対策を講じてきた。入札手続きを担う部署の管理職は「予定価格を実勢価格に近づけるにしても行政側ができること、やれることには限界がある」と苦しい胸の内を吐露する。
 物価高は今後も続くと見られる。まちづくりを取り巻く環境が厳しさを増す中でも、再開発ビルや公共施設には地域のにぎわい創出、発展の起爆剤として期待がかかっていることに変わりはない。難局を乗り切るため、関係者のより密な連携が求められる。

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