京大、鹿島/月面人工重力施設の共同研究開始、5年程度で成立性見極め

2024年12月19日 企業・経営 [3面]

文字サイズ

 京都大学と鹿島は、月面人工重力居住施設「ルナグラスNEO」の実現可能性を探る共同研究に着手した。月面で人類が長期間安全に生活できる環境を構築するのが目的。18日に同大大学院総合生存学館専攻長の山敷庸亮教授、鹿島イノベーション推進室の大浜大室長、大野琢也宇宙担当部長らが同大吉田キャンパス(京都市左京区)で会見し、研究の意義と内容を説明した。今後5年程度で成立性を見極め、将来的な月面探査や宇宙移住に向けた技術的基盤の確立を目指す。
 ルナグラスNEOは月面での生活環境を地球に近い形で再現するため、遠心力を利用して人工重力を発生させるドーム型の居住施設。高さは約400メートル、直径約200メートルで1分間に3回転する。施設内部には生態系循環システムも設置し、1万人が居住できるという。
 重力不足がもたらす骨密度低下や筋力の衰えといった健康面のリスクを軽減し、長期滞在を実現する技術として注目される。
 回転による人工重力が人体に与える影響を医学的に評価する必要もあり、地球上での技術検証を可能にする過重力施設「ジオグラス」の建設を計画。閉鎖環境での微小生態系の循環を実現する「ミニコアバイオーム」の研究も進める。
 今後の検討課題としては、現地材料の利用など月面環境に適した建設方法の確立を挙げる。具体的には月の表面を覆う砂や岩の破片などの堆積物を活用した建材の開発や、AIを活用した無人施工技術の導入が求められる。極端な温度差や宇宙放射線への対策として、遮へい性や耐久性を備えた素材の選定も重要になる。
 同日の会見で山敷氏は「宇宙空間で持続的に生活するには、生存基盤となる重力環境の再現と宇宙放射線の防御、生態系の循環が欠かせない」との見解を示した。大浜氏は「これまでの基礎的な概念検証の成果が国内外で高く評価された。施設の構造や施工の成立性といった観点から研究をさらに先に進め実現を目指す」と述べた。
 大野氏は「低重力環境に長期間適応すると地球に戻れなくなる可能性があり、それぞれの環境に暮らす人たちの間で分断が生じる恐れがある」と指摘。その上で「この分断を防ぐために人工重力居住施設の構築が不可欠だ」と意義を強調した。