東京都の雨水貯留施設が、頻発化する豪雨による浸水被害を抑えている。中野区本町付近から杉並区堀ノ内付近までの地域で水害解消を目的に整備した和田弥生幹線。今夏の台風上陸時、河川に放流しきれない雨水をためて内水氾濫を防いだ。2007年に本格稼働し、貯留量は15万立方メートルと国内最大級を誇る。気候変動の影響などにより、今後も活用シーンの増加が見込まれる。
和田弥生幹線が24年度に1万立方メートルを超える水をためたのは7月6日と同20日、8月29日から30日までの計3回。同29、30日は台風10号に伴う豪雨により稼働した。この台風は広い範囲で長時間雨が降り、各地で土砂災害などを引き起こしたが、同幹線がある中野区や杉並区では大きな浸水被害がなかった。
東京都は17日、同幹線を報道機関向けに公開した。本郷通りの地下50メートルに敷設し、内径は8・5メートル、延長は東京メトロ・中野新橋駅付近から環状7号線までの2・2キロ。このほか、全長5・1キロの集水管網のほか、39カ所の分水人孔、2カ所のポンプ施設で貯留システムを構成している。
分水人孔は下水処理場に送る水、河川に放流する水、幹線に貯留する水などを振り分ける機能を持つ。集水管は、下水道に流れ込んだ雨水の一部を幹線まで導く役割を担う。
集水管と和田弥生幹線の高低差は20メートル。地下深くにある幹線にそのまま水を落下させると着水時に振動や騒音が発生し、設備の損傷を招く恐れもあった。そこで高所から流入する水の流下を緩やかに安定的に行う「ドロップシャフト」という技術を採用した。
地下に水を流す垂直の管の内部にらせん状の案内板を設置。板の上に水を流すことで落下エネルギーを抑え、短時間で大量の水を貯留できるようにした。ドロップシャフトは「内径2・5メートル、高さ27メートルの日本最大級の施設」(下水道局担当者)だという。
07年の本貯留開始以降、大きな浸水被害は起きておらず「大きな整備効果があったといえる」(同)。記録的な豪雨となった19年の台風19号では満管となったものの、深刻な浸水被害は発生しなかった。