誰もが活躍できる業界へ-担い手確保の挑戦・2/価値観に寄り添い関係性築く

2024年12月20日 行政・団体 [1面]

文字サイズ

 ◇伴走者となり社会復帰支える
 生きづらさを抱える若者を支援する私たちと、建設業がコラボレーションすれば、人口減少で転換期にあるわが国のピンチをチャンスに変えられる--。そう力を込めるのは、佐賀県武雄市のNPOスチューデント・サポート・フェイスの谷口仁史代表理事だ。ニートの自立を促す地域若者サポートステーションの先駆けとして、さまざまな職種で連携した支援体制を構築。全国トップクラスの就職実績を上げてきた。
 谷口氏は11月27日のサポートステーション連携会議で講演。「DVやヤングケアラー、貧困、発達障害などの問題が複合化し、家庭自体が地域で孤立している場合が多い」と指摘した。そうした環境にある若者を就労につなげるには「価値観に寄り添って関係性を築き、社会生活に必要な経験を積んでもらうプロセスが必要だ」と説く。
 引きこもっていた高校生が建設業を通じて社会に出たケースを紹介した。進学校の学習負担や同級生の「いじり」などで学校に行けなくなり、スクールカウンセラーの介入も拒否していた。彼がいわゆる「オタク」でメイドカフェに憧れていると聞いていた谷口氏は、スタッフと東京・秋葉原のメイドカフェに行って写真を撮影。その写真を見せに行って仲間と認識してもらい、そこを取っかかりに心を開いていった。
 一緒に夜釣りに行ったり、当事者たちが集う「ピアサポート」で野球大会を開いたりするなど「小集団活動」で少しずつ人との関わりに慣れてもらい、職業や生活を指導訓練する「職親」につないだ。建設会社を営む職親の下、椅子や机の組み立てを体験。椅子や机は、同じ境遇にある子どもの相談施設で使ってもらった。「人の役に立つことで自己肯定感を高める過程」(谷口氏)を経て、晴れて建設業への就職を果たした。
 「人とつながる力が弱まっている当事者には、育った環境などを理解している人たちが『伴走者』となって支えることが大切だ」。そう谷口氏は語る。
 講演に先立ち、谷口氏は利根沼田テクノアカデミー(群馬県沼田市)を訪れた。同アカデミーの研修は「段階的に成長する過程や達成感が目に見える点などが就労支援と共通している」と評価する。
 わが国の教育現場は「『キャリア教育』と称する誤ったメッセージを送り続けてきた」と谷口氏。「望む職に就けなかったり、出遅れたりすると『人生の負け組』のように感じてしまう。『全ての仕事に価値がある』という職業観に立ち返る必要がある」と話し、建設業を含む多様な職業が支援や教育の枠組みに参画する意義を強調した。