◇政府・与党の対応が活発化
国土強靱化を巡る政府・与党の対応が活発になっている。「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」の後継となる「実施中期計画」の策定作業が本格化し、事業規模は与党から「5年で20兆~25兆円くらいは必要」(佐藤信秋自民党国土強靱化推進本部長)という見方が出てきた。石破茂首相の指示で、2026年度の防災庁設置に向けた準備が進行中。内閣府防災の関係予算は、ほぼ倍増の方向となった。
□実施中期計画/物価考慮し十分な予算を□
改正国土強靱化基本法(2023年6月施行)に基づく実施中期計画は、防災・減災などの取り組みを進めるための事業規模とともに、物価上昇の扱いが策定の焦点になる。毎年度の補正予算で現行の5か年加速化対策の予算が手当てされる中で、23、24年度は物価上昇相当分として計6000億円の国費が確保された。25年度で終わる同対策に続く実施中期計画の事業規模には、どう配慮されるのか注視する必要がありそうだ。
5か年加速化対策は、事業規模約15兆円(うち国費7兆円台半ば)とすることで20年12月に閣議決定された。内閣官房国土強靱化推進室によると、24年度補正予算までに、民間事業者分を含めて累計約14・3兆円(うち国費約7・4兆円)が手当てされた。民間事業者分は今夏に追加がある。23年度相当(約7000億円)が加われば、事業規模は閣議決定の水準に並ぶ。
同推進室の集計のうち、国費の累計には23、24年度とも3000億円の計6000億円の国費「国土強靱化緊急対応枠」が含まれていない。これを単純に上積みすると国費は約8兆円になる。国費は国土交通省など関係省庁の合計額。同緊急対応枠は、物価上昇による事業規模の目減りを避けるために設けられ、金額は財政当局との協議で定められた。
実施中期計画は政府が早期の閣議決定に動いている。能登半島地震の復旧・復興が続く中、豪雨災害が毎年発生し、南海トラフ地震や首都直下地震のように未曽有の被害が想定される災害が近い将来に発生する懸念が高まっている。物価上昇の継続も想定され、事業規模は5か年加速化対策以上の水準が必要という指摘が与党内にある。公明党は「5年20兆円規模」が必要とみている。
国の一般公共事業予算(国費)は25年度(予算案ベース)までの5年が約32兆円。一般公共事業は防災・減災に貢献するインフラ整備が多く、政府・与党には、5か年加速化対策の約15兆円を上積み分として、計約47兆円を国土強靱化関連の予算規模とする捉え方がある。
自民党国土強靱化推進本部は「(物価上昇の)解釈を十分にしながらの検討」(佐藤本部長)を政府に求める考え。仮に物価上昇を2割とみたなら、国土強靱化関連の5年換算の予算規模は単純計算で約56兆円に膨らみ、与党が必要と見ている上積み分の20兆~25兆円を一般公共事業予算に足した額とほぼ合致する。
物価上昇を考慮した国土強靱化緊急対応枠を一般公共事業予算でも勘案したらどうなるか--。「総額の議論が大事」(同)という実施中期計画の策定は、公共投資の規模を左右することになる。
□防災庁設置準備/現行体制の行方にも焦点□
「本気の事前防災のための組織が必要」。石破首相が2026年度の設置に向け準備を指示した防災庁を巡る政府・与党の検討が本格化してきた。内閣官房には24年11月1日付で設置準備室が立ち上がった。自民党は新設した「防災体制抜本的強化本部」の初会合を同12月13日に開き、党の考え方を提言にまとめることを決めた。人員、体制、府省庁との関係など大枠が見えてくるのは、政府が「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」を毎年出している6月ころになる見通しだ。
内閣府防災の24年度定員は110人。このうち省庁からの出向者が多数を占める。通常は自治体などからの行政実務研修員(42人)や政策参与・政策調査員(6人)と共に活動する。平常時は防災関係政策の企画・立案、関係省庁との総合調整、被災者支援などを担っている。
大規模災害が発生した場合は、平常時の編成を緊急時用に移行し、災害対応の司令塔となって府省庁と事態に対処する。緊急時の編成になると、災害への備えや、災害が起きた後の復興を含めた「事前防災」を担っている人員が事態対処に臨む。重要性が高まっている事前防災への対応が滞るだけでなく、「災害が頻発化し、今の防災は事態対処続き」(内閣府幹部)という指摘が政府内からも出ている。
石破首相は24年9月の自民党総裁選時から事前防災と発災後の対応を担う防災庁の26年度創設を主張してきた。「防災省」への格上げも視野に入れている。防災庁の設置準備として、24年11月に決定した総合経済対策には、内閣府防災の機能を予算・人員の両面で抜本的に強化すると明記。防災全般のトップとなる「防災監」を事務次官級のポストとして新設し、職員数を倍増する。
自民党の同本部は、政府サイドの検討に合わせた「段階的な提言」(谷公一本部長)を予定している。党内には「国と地方自治体の役割、(事態対処に動いている)国土交通省との関係をどうするか、地に足の着いた議論をしないといけない」(松村祥史前防災担当相)という意見もある。事前防災と事態対処を担う新組織とともに、各府省庁の防災分野の体制の行方が注目される。