再生可能エネルギーのうち、設備利用率が60~70%と高く、ベースロード電源としての役割が期待されている小水力発電。田中水力(神奈川県厚木市、梅村賢二社長)は1932年の創業以来、小水力発電一筋で事業を展開してきた。水車設計を中核技術に据え、小水力発電プラントの機器選定から設計、製造、組み立て、現地据え付け工事、性能試験、その後のメンテナンスまで一貫して行っている。発電効率のアップに向けた既存施設の更新だけでなく、新設も着実に増えている小水力発電の現状と同社の取り組みを紹介する。
□電力量で約400億kW時増やす□
経済産業省が検討を進める次期エネルギー基本計画(第7次)では、電力需要を賄う電源として、再エネを2040年に全体の4~5割程度まで引き上げる方針だ。23年度速報値で再エネの割合は全体の22・9%しかなく、大幅な引き上げとなる。
目標とする電源構成は▽太陽光22~29%(23年度速報値9・8%)▽風力4~8%(同1・1%)▽水力8~10%(同7・6%)▽地熱1~2%(同0・3%)▽バイオマス5~6%(同4・1%)。残る電源は原子力が2割程度(同8・5%)で、現在7割弱(同68・7%)を占める火力は3~4割程度まで引き下げる。
再エネのうち水力の目標値はおおむね1割程度だが、太陽光や風力に比べ、天候や時間に左右されにくく、昼夜、年間を通じて安定した発電が可能。このため、電力会社や地方自治体などでは水力に力を入れるところもある。
田中水力の梅村卓摩取締役は「40年までに水力は2%程度の引き上げとなるが、電力量でいうと約400億キロワット時に相当する。これから大規模ダムを新設し、大型水力発電施設を設置するのは現実的に難しく、主に1万キロワット以下の中小水力発電や1000キロワット以下の小水力発電が担うことになる」と分析。「当社も小水力発電の可能性検討の問い合わせがここ数年増えている」という。
□落差と流量を勘案し最適な提案□
水力発電は1800年代後半に実用化され、さまざまな水車が考案された。基本的な水車構造には特許がなく、固定価格買い取り(FIT)制度が始まった12年ころは多くの企業が中小水力やマイクロ水力発電事業に参入した。ただ、水の制御は容易ではなく、ノウハウが必要となる。求められる精度も極めて高いため、小水力分野の機器メーカーは現在5社程度にとどまる。
田中水力はその中でも最大手で、水車のラインアップの多さが強みの一つ。水車は▽渦巻きフランシス▽円筒形フランシス▽クロスフロー▽ターゴ▽ベルトン-などの商品をそろえ、立軸フランシス水車の設計製作体制も整えている。
「水車は“落差と流量”を基本に、水の流れ方や設置場所を勘案して最適なものを提案する。国内では渦巻きフランシス水車が主流だが、これは発電効率が高く、適用範囲も広いため。ただ、立地場所によって季節ごとに流量が減ったり、土砂や落葉が多かったりすることもある。その際は事前調査を基に最適な水車を提案し、さらにメンテナスがしやすいよう点検窓を設けて土砂のたまり具合を確認できるような設計もする」(梅村取締役)。
もう一つの武器が小回りの良さ。小水力発電はメンテナンスをきちんと行えば40~50年はもつ。同社では最適な発電計画の提案だけでなく、電力施設のトラブル発生時の迅速な対応も強化している。
梅村取締役は「当社では品質保証チームを中心に、平時のメンテナンスだけでなく、地震時や豪雨災害時などで発電が止まった場合、できるだけ早く現場に赴き、復旧を行っている」と説明する。
□お客さまのニーズに伴走していく□
同社は年間10基程度の水車プラントを納入している。その半分以上が明治・大正時代に整備された発電所のリプレース。FITの買い取り価格が下がって新設はやや減少傾向にあるが、リプレースの案件が増え、全体的には納入件数が徐々に上昇しているという。
梅村取締役は「当社の規模から言えば今の納入水準が標準。小水力発電は水の権利関係の調整や役所の手続きなどで、計画から稼働まで5~10年かかる。その間に仕様が変わることも多いが、それに柔軟に対応できることも顧客にとって重要になる」という。
水が豊富な北海道での案件が今後増えるとみる。その上で「全国的に見ると流量が減っているところが多く、リプレース時には減った流量に合わせ、小さめの水車を提案することもある。自然条件の変化と事業者のニーズに応えながら、丁寧に伴走していくのが当社の役目。自然に優しい小水力発電を通じて社会貢献してきたい」と展望する。