近畿地方整備局は15日、17日に迎える阪神・淡路大震災30年を機に、大阪市内でシンポジウムを開いた。6400人を超える尊い命が失われ、家屋やインフラ施設も壊滅的な被害を受けた大震災から得た教訓を次の世代にどう伝え、生かしていくのか。震災経験者を含む産学官によるパネルディスカンションなどを通じ、東日本大震災や熊本地震、能登半島地震などの教訓も踏まえた防災・減災対策の在り方などを議論した。 =1面参照
シンポジウムには約500人が参加。開会に先立ち近畿整備局の出口陽一副局長が「震災を機に国土交通省は橋や住宅などの耐震基準を見直し、さまざまな対策を講じてきた。過去の震災に真摯(しんし)に向き合いながらいつ発生しても不思議ではない南海トラフ地震への備えを着実に進めていきたい」と話した。
基調講演では関西大学社会安全学部の奥村与志弘教授が「阪神・淡路大震災からの30年に学ぶこれからの防災・減災」をテーマに、家屋倒壊や家具の転倒など直接死対策と関連死対策を振り返り、今後の対策などを持論を含め紹介した。
災害関連死について「死亡原因が多岐に及ぶなど、何か対策を打てばゼロになるという単純なものではない。多様なアプローチで手を打たなければならない」と対応の難しさを強調。今後の防災・減災対策では「従来と同じことだけではなく新たな視点をもっと増やし、防災に関心がない人まで価値が届くような取り組みを充実させられるかが鍵になる」と指摘した。
続いて、菅原隆喜神戸学院大学客員教授が「阪神・淡路大震災と地震火災」をテーマに講演した。震災当時、神戸市消防局に勤務し火災の消火活動を経験。消火栓の機能が失われ、海水の注入などで鎮火した壮絶な消火活動を振り返った。大地震の教訓を生かすため、世代を超えて伝承する必要性を強調。「自分ごととして伝えるためにもボランティア活動などを通じ、被災地を自ら見て経験した方がいいだろう」と提案した。
パネルディスカッションでは上田浩嗣兵庫県土木部長、岸本佳子産経新聞社大阪編集局編集長、北岡隆司日本建設業連合会関西支部長、小松恵一神戸市建設局長、高橋伸輔近畿整備局企画部長、真砂充敏和歌山県田辺市長が登壇。矢守克也京都大学防災研究所副所長教授がコーディネーターを務め、阪神・淡路大震災の振り返りと復興の歩み、他の災害を含めて得た教訓を生かした防災・減災対策の在り方などを議論した。
上田氏は東日本大震災でも一部導入された「二段階方式による都市計画決定」など、特徴的なインフラの復旧計画などを紹介。発災時には「インフラの被害状況の早期把握が重要になる」とし「人工衛星や航空機、UAV(無人航空機)など効果的な手法を使うなど大震災への備えを充実させていく」と語った。
震災当時、道路啓開作業などに従事した小松氏は「大きな混乱の中で当時の上司がトップダウンで担当職員にも権限を与えてくれた。難しい判断が必要な場合を除き自ら考え対応でき、非常に効率的に動けた」と振り返るとともに、若手職員に震災の経験や教訓を伝える研修などを行っている現状を紹介した。被災地の取材に奔走した岸本氏は「即時性ではSNSにかなわないが、正しい情報を届ける、情報を分析し息長く伝えていくことが使命だ。災害を風化させないためにもメディアのやるべきことはたくさんある」と強調した。
北岡氏は「改善の余地はあるが数々の災害を経験し、建設業界も迅速性、的確性が向上してきた」と評価。国が進める防災・減災対策の重要性も指摘し「発災後の被害を軽減できるよう先手の社会資本整備が必要」と期待した。
真砂氏は昭和南海地震を振り返るとともに、昨年策定した事前復興計画を紹介。「歴史や文化の重要性を考慮した復興後のまちづくりを視野に入れ、世界遺産を核とした観光振興にもつなげるハイブリッドなまちづくりに挑戦したい」と意気込みを語った。高橋氏は「災害が起きるたびに教訓や課題を踏まえ対応をアップデートしてきた。関係機関や建設業界などとの連携を一層強化し、南海トラフ地震の備えもしっかりやっていきたい」と力を込めた。