2024年度東北地域づくり講演会/東日本大震災から考える創造的復興とまちづくり

2025年1月21日 論説・コラム [10面]

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 大規模災害の復旧・復興過程で得られた教訓や課題を共有し、次代のまちづくりにどうつなげていくか--。過去の学びを災害への備えや防災力の強化に生かそうと、東北地域づくり協会(渥美雅裕理事長)が2024年11月22日に仙台市内で講演会を開いた。テーマは「東日本大震災から考える創造的復興とまちづくり」。宮城県南三陸町の佐藤仁町長と、都市・交通計画や社会基盤計画学が専門の南正昭岩手大学理工学部教授が講師を務めた。
 震災から3月で14年を迎える。冒頭、渥美理事長は「残念なことだが、災害は過去の出来事という空気感が社会に広がっているように思える」と指摘。「道路や河川、港湾、新たな宅地といった復興インフラはほぼ整った。一方で、それらを土台とする『暮らし』や『なりわい』の再生は途上であり、まだまだ時間と努力が必要だ」と訴えた。
 「全国からの多くの支援で絶望から立ち直りつつあるわれわれには、復旧や復興、再生という一連の過程と具体的な取り組みを積極的に発信していく責任がある」と来場者に呼び掛け、「本日の講演が地震と豪雨により甚大な被害を受けた能登半島地域をはじめ、災害の復旧・復興に取り組んでいる各地の方々の役に立てればと思う」と語った。

 □「南三陸 東日本大震災からの創造的復興」宮城県南三陸町・佐藤仁町長□
 防災対策庁舎の屋上で被災した佐藤町長は「この町は必ず復興する」と毎日、記者会見で発信し続けた。激動の日々を振り返り「あきらめないでやれば物事は成就する」との思いが心に刻まれているという。
 全国から派遣された行政職員らの力添えを受けながら、数多くの事業が同時並行で進む日々。町長として「未来に向けて持続可能な町をどのようにつくっていくか、町民と一緒に考え歩んできた」と話す。
 南三陸町の復興リーディングプロジェクトは▽安心して暮らし続けるまちづくり▽自然と共生する町づくり▽なりわいと賑(にぎ)わいのまちづくり-の三つ。同町は120年の間に4度、大きな津波が襲来した。復興計画の一丁目一番地は高台移転。なりわいの場所はさまざまであっても、“住まいは高台”を原則にし、安心して暮らし続けるまちづくりを進めた。
 復興には産業基盤の再生が不可欠だが、どのような産業を立ち上げるかは、町民の独自性に極力委ねた。町が心掛けたのは豊かな自然との共生。林業や水産業を後押しする具体的な動きとして、循環型社会への挑戦や県内初のFSC(森林管理協議会)国際認証取得、国内初のASC(水産養殖管理協議会)認証取得などを目指した。
 南三陸の基幹産業となる水産と観光を生かしたまちづくりを推進。震災前から行っていたサケのふ化放流事業を再開し、市場の復活や水産業の再興を後押し。銀サケの養殖に国内で初めて成功した。震災の翌月から福興市も始まり、全国規模で商店街と協力関係を築き、町の情報を盛んに発信。観光地として復活した地元の「さんさん商店街」は多くの来町者によって支えられた復興のシンボル的な場所だ。
 復興事業を締めくくる「3・11メモリアル施設」は、発災当初から支援に力を尽くしてくれた多くの人に感謝を伝えつつ、震災伝承や防災を考える場になっている。佐藤町長は「防災を自分事として考えながら経験する場所はここを置いて他にはない。皆さんの目で南三陸を見てほしい」と呼び掛けた。「行政と町民が理念を共有し同じ方向に向かって歩めたことが復興の礎になった」と官民協働の大切さを強調した。

 □「東日本大震災からの復興と未来へのまちづくり」岩手大学理工学部システム創成工学科・南正昭教授□
 南教授は戦後の東北開発や東日本大震災の復興を振り返りながら、未来を見据えたまちづくりで持論を展開した。第2次大戦は日本に大きな爪跡を残した。荒廃した国土をどう復興していくのか。その方向を指し示した国土計画基本方針が「地域づくりの道筋を付けた」と述べた。
 1950年に国土総合開発法の制定を受け東北開発が始まった。第9代東北大学総長を務めた高橋里美、岩手大学初代学長の鈴木重雄両氏は、51~61年に発行された書籍『東北研究』で住民主体、市民参画という考え方を説いていた。震災復興のまちづくりにも深く通じた言葉で南教授は「これからも私たちが関わる地域づくりでも忘れてはならない教訓だ」と力を込めた。
 震災復興のプロセスでまちの再建や社会基盤の整備がどのように進められ、地域住民は過程をどのように受け止めてきたか。南教授は「それぞれの地域には過去からつないできた文化がある。復興の道のりも住み続ける人たちの覚悟があった」と読み解く。事前防災や事前復興の重要性を訴えつつ、「災害は終わったことではなく、次に備えていくことを考えて進んでいかなければならない」と指摘。悲しみを繰り返さないためにも「知恵と技術で備え自らが行動し、災害から命を守り、乗り越えていくことが重要だ」と熱弁した。
 これからのまちづくりは少子高齢化を切り離して考えられない。各自治体では将来に向けたまちの姿を描く立地適正化計画を策定している。南教授は岩手県宮古市を例に挙げ、「計画策定で重視したのは市民参画だ。あらゆる分野の方が参加し対話を重ねていく。協働のまちづくりには合意形成のプロセスが必要だ」と話す。
 能登半島では復旧・復興に向けた取り組みが本格化しており、「東日本大震災を経験してきた皆さんの言葉ほど頼りになるものはない」と強調。震災伝承の取り組みに対し「3・11伝承ロードは広域的に被災地を結ぶネットワークとして果たす役割を広げていかなければならない」と訴えた。
 これまでの経験から伝承活動が災害に強い地域づくりとまちの活性化に貢献するとも指摘。東日本大震災の教訓を生かすためにも「未来のまちづくりを考える時、『連携協力』の理念を大切にするべきだ」とし、講演を締めくくった。