◇海陸統合3D地下構造モデル構築
文部科学省の科学技術試験研究委託事業として海洋研究開発機構が代表を務めるチームが進めてきた「防災対策に資する南海トラフ地震調査研究プロジェクト」の成果報告会が27日、高松市で開かれた=写真。2020年度から5年間の研究成果を第一線の研究者が紹介。成果を基に地域の防災にどう貢献していくか産学官のさまざまな立場から議論した。約170人が聴講した。
文科省地震調査研究推進本部のフラッグシップに位置付ける研究開発で、海洋研究開発機構以外のメンバーは防災科学技術研究所と東北大学、東京大学、産業技術総合研究所、京都大学、名古屋大学、香川大学、徳島大学。南海トラフ地震の活動を把握・予測し、社会を守る仕組みを作り、地域への情報発信による減災を目指し▽地震を知る(地殻活動情報創成研究)▽社会を守る(地震防災情報創成研究)▽発信する(創成情報発信研究)-の三つのサブ課題を設けた。
24年1月の能登半島地震では地震や津波による被害に加え、土砂災害、液状化など地震複合災害への対応の重要性が明らかになった。同8月の日向灘地震では南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)が初めて発表され、情報発信の迅速化や発表が社会に与える影響が課題として浮き彫りとなった。
冒頭、文科省研究開発局地震火山防災研究課の黒川典俊氏は「最新の研究成果は日向灘地震の際に発生からわずか2時間後、気象庁の臨時会議に提示された資料の作成に活用されるなど政府の地震活動の評価にも貢献している」と研究の意義を強調した。
報告会は2部構成で行われた。第1部では研究代表の小平秀一海洋研究開発機構理事がサブ課題の全体概要を説明した上で、地殻活動情報創成研究でプロジェクトの基盤的情報となる「海陸統合3D地下構造モデル」を構築したことなどを紹介した。「開始時に計画していたほぼすべての研究テーマで予定通りの成果を上げられた」と報告。「南海トラフ地震防災研究はこれで終わりではない。研究のさらなる進展、地域や社会と連携し、防災対策をより一層進めるのが重要だ」と力を込めた。
豊口佳之四国地方整備局長は「能登半島が半島ゆえに復旧が困難だったということを考えると、四国は半島ではなく島であり、全国からの応援のルートも限られ厳しい環境にある。ハード、ソフト両面で関係機関と連携し万全の防災対策に取り組む。こうした研究が進んでいるのは心強い」と期待を示した。
池田豊人香川県知事のあいさつで始まった第2部では、金田義行香川大学特任教授をファシリテーターにパネルディスカッションが行われ、石川恵市香川県危機管理総局長や和泉雅春四国整備局統括防災官らが地殻活動やリスク評価、被災イメージ、人材育成をキーワードに活発に意見を交わした。
南海トラフ地震対策ではリアルタイムの観測データが重要となる。文科省は高知県沖から日向灘にかけ、南海トラフ海底地震津波観測網「N-net」を整備し、今年から本格運用を開始。南海トラフ沿いの地震を最大20秒、津波を最大20分程度早く直接検知できるようになる。緊急地震速報や津波情報の発表などへの活用が見込まれる。南海トラフ地震などの巨大地震の被害最少化や迅速な復旧・復興につながる研究プロジェクトを25年度から予算を増額して開始する予定だ。