帝国ホテル/弥栄会館(京都市東山区)保存活用、大林組とプロジェクト説明

2025年1月30日 工事・計画 [4面]

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 ◇外装を最大限生かす工夫や観光地で施工する配慮点など
 帝国ホテル(東京都千代田区、定保英弥社長)は29日、東京都内で記者会見を開き、歴史的建造物「弥栄会館」(京都市東山区)を保存・活用するプロジェクトの概要を発表した。設計・施工者の大林組の担当者が登壇。既存の外装を最大限生かすための工夫や、観光地で大規模工事を施工するための配慮点などを説明した。工事は2022年に着工済みで、現在の進捗率は65~70%。10月の竣工、2026年春の開業を目指している。
 帝国ホテルは同日、同会館を活用して整備するホテルの名称を「帝国ホテル京都」に決めたことも発表した。
 1936年に大林組の設計・施工で竣工した同会館を、再び同社の設計・施工でホテルへと改修している。既存建物は劇場のため床面積が小さく、そのままホテルに転用するのは不可能。外装のみを残し、内部に新たなホテルを整備する。ホテルはSRC・RC・S造地下2階地上7階建て延べ1万0804平方メートルの規模で計画。客室(55室)やレストラン、バーなどを設ける。
 同会館は市の歴史的風致形成建造物に指定されている。改修に当たっては西側と南側の外装を残しつつ、内部を解体。タイルの保存・再利用のほか、銅板屋根のふき替えなど、意匠を最大限残せるよう心掛けた。タイルは1・6万枚を剥がし、再利用できる物とできない物を分類。剥落の恐れがないよう、引っ張り試験などで確認しながら貼り直した。
 竣工図と現況と異なる部分もあり、構造補強では現場合わせの丁寧な作業が必要だったという。祇園エリアの中心部という立地のため、騒音・粉じん対策や周辺説明、近隣住民との関係構築にも力を注いだ。
 同社の井上雅祐設計本部担任副本部長(営業本部伝統建築・ヘリテージプロジェクト・チームリーダー)は「周辺の期待感が高まっているのを感じる。脱炭素化を背景に、既存建物を改修して使う事例は今後どんどん増えてくるだろう」と見通した。松本和也京都支店京都KIH計画工事事務所所長は、周辺住民との関係構築に特に配慮しているといい「10月までしっかり誠実な仕事をし、近隣と帝国ホテルとの橋渡しができたらと思う」と話した。
 伊藤直幸設計本部大阪建築設計第三部上級首席技師は、銅板屋根が緑になる経年変化などを踏まえ「ホテルが経年変化とともに歴史を紡げるよう、皆さまが見守る中で育っていってほしい」と展望。藤井彰人設計本部大阪構造設計第二部担当部長は「ホテルが弥栄会館と同様、80、90年後も歴史的な建築物として認められるような建物になってほしい」と期待した。